第19話
(※父親視点)
銃を持っている右手が、震えていた。
本当に、これでいいのか?
まだ何か、ほかに残された道が、あるのではないか?
私は何度も自問した。
しかし、こうする以外に残された道はないというのが、私の出した結論だった。
こうしなければ、私とヘレンは破滅だ。
自白すれば、情状酌量で減刑してくれると妻は考えているが、それは甘い。
確かに少しは減刑されるだろうが、王家を騙した重罪だということに変わりはない。
重い処罰が下されることは、確実だ。
そんなこと、絶対にあってはならない。
ヘレンが重い処罰を下されるなんて、私には耐えられない。
もちろん私自身も、処罰を受けることなんて、嫌である。
私たちは家族だ。
家族なら、助け合わなければならない。
それなのに、自白するだって?
そんなこと、許されるはずがない。
私たちが今すべきことは、そんなことではない。
王子を騙していることがバレないように祈り、そのための手段を講じることが、一番いいに決まっている。
自白するなんて、論外だ。
それは私とヘレンに対する裏切り以外の、何ものでもない。
だから私は、自信とヘレンの未来を守るため、こうするしかないんだ……。
べつに、恨みなんてない。
妻のことは、本当に愛している。
しかし、彼女は明日、すべてを話そうとしている。
それだけは、防がなければならない。
だからこれは、仕方のないことなんだ……。
私は銃を持っている右手に力を込める。
人差し指を軽く動かすだけで、私の目的は達せられる。
しかし、引き金がとてつもなく硬いように感じた。
軽く人差し指を動かせばいいだけなのに、それがこんなにも難しいことだなんて……。
いや、迷っている暇はない。
私はもう、やると決めたんだ。
これ以外に道はないと、そう結論づけたではないか。
私は、すべてがバレてしまった時のことを想像した。
世間からはバッシングされ、重い処罰を受ける。
最悪、命まで失うことだってあるかもしれない。
また、運良く生きている間に牢獄から出られたとしても、その後の人生は悲惨なものになるだろう。
貴族としても権利は剥奪されるだろうし、周りからは冷たい目で見られ、酷ければもっと直接的な被害に遭うかもしれない。
考えただけで、恐ろしかった。
恐怖で体が震えていた。
私とヘレンがそんな目に遭うなんて、考えるだけでも苦痛だ。
恐ろしくてたまらない。
それらに比べれば、今引き金を引くことは、恐ろしくもない。
私とヘレンの未来を守るための、当然の権利だとさえ思えてきた。
先ほどまでは引き金が固いと感じていたが、今はそうではなかった。
私は人差し指に、そっと力を加えた。
白いシーツに、赤い血がゆっくりと滲んでくる。
それを見て私は、大きくため息をついた。
それは、これでもうバレる心配もないと思った安堵のため息なのか、それとも後戻りできないことを自覚してついたため息なのか、よくわからない。
しかし不思議と、悲しいとはあまり感じなかった。
確かに悲しいと感じてはいるが、それ以上に私とヘレンの未来を守った喜びの方が大きかった。
これですべて終わり、というわけにはいかない。
私にはまだ、やるべきことがある。
それは、偽装工作だ。
このままでは、私が疑われてしまうかもしれない。
私は部屋を荒らし、棚の引き出しを開けた。
そして、金目の物をいくつか取って、それを袋に入れた。
それから、近くの森へ行った。
そこで、金品と銃を捨てた。
これで、妻が死んだのは、強盗のせいだと思われるはずだ。
何も問題ない。
あとは家に帰って、私が第一発見者になれば、疑われることはない。
ヘレンは王宮に帰り、私は散歩をしていた。
その間に強盗が侵入し、妻が殺された。
そういう筋書きだ。
完璧な偽装工作だから、穴なんてどこにもないはずだ……。
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