第20話
「お母様が、亡くなった?」
私は突然の報せに、驚いていた。
私の言葉を信じてくれている兵、アンドレ・へーゲンは、私にそのことを教えてくれたあと、お悔やみの言葉を告げた。
不思議と、あまり悲しいとは感じなかった。
今まで育ててくれた恩はあるけれど、それ以上にひどい扱いを受けてきたせいもある。
それに、あまりに突然のことだったので、悲しみよりも驚きの方が大きかった。
「あの、アンドレさん、どうして母は亡くなっていたのでしょうか?」
私は彼に質問した。
「今のところは、強盗の仕業と見られています」
「強盗ですか……」
確かに、ありえないことではない。
しかし、どうにも腑に落ちない。
なんというか、タイミングが良すぎるというか、悪いというべきなのか、とにかく、ただの強盗ではないような気がした。
もちろん、根拠もない単なる勘だけれど。
「あの、その手に持っているものは何ですか?」
私は彼に質問した。
「あぁ、これは、その強盗事件の資料です。私も調査に加わるように言われたので、今から戻って資料に目を通そうと思っていたのです」
「あの、それ、私にも見せてもらえませんか?」
私は無理を承知でお願いした。
「いや、それは、その……」
彼も困っている様子である。
しかし、私は母の最期を、知りたかったのだ。
「お願いします。母がどのような最期を遂げたのか、知りたいのです。それに、私に生まれ育った家ですから、資料にある写真を見れば、何か気付くかもしれませんよ?」
「……ええ、わかりました。本当は部外者に見せてはいけないのですが、貴女はずっとここにいたので犯人の可能性はありませんし、今は少しでも情報が欲しいですからね。何か気付いたことがあれば、どんな些細なことでも言ってください」
「ええ、ありがとうございます。それではさっそく、資料を拝見しましょう」
私はアンドレさんと一緒に、資料に目を通した。
そして私は、あることに気付いたのだった。
*
(※ヘレン視点)
お母様が、亡くなった。
もう、お母様の声を聞くことはできない。
その事実が、私に重くのしかかっていた。
兵からの報告を受けた殿下から、私は話を聞いた。
お母様は、強盗に銃で撃たれたとみて、兵たちは調査をしているそうだ。
強盗に銃で撃たれたですって?
意味が分からなかった。
そのことで、私の頭は混乱していた。
ということはつまり、私ももう少しあの家にいる時間が長ければ、強盗に撃たれていたかもしれないのだ。
私はそのことに、恐怖を感じていた。
とにかく、わからない。
いったい、どうしてこんなことになっているのか……。
お母様とは、喧嘩別れになってしまった。
そして、もう二度と、仲直りもできない。
謝ることさえ、できないのだ。
私はお母様との最期を思い出していた。
自然に、涙があふれてきた。
どうして、あんなことになったの……。
全部、私のせいなの?
もしかしたらほかに、選択肢があったのかもしれない。
私とお父様が、お母様の提案を受け入れて、あの家に残っていれば、違った結末を迎えたのかもしれない。
そもそも私がお姉さまの縁談を奪って、殿下と婚約しなければ、こんなことにはならなかったのかもしれない。
しかし、後悔したところで、後戻りなんてできない。
進んだ時間を戻すことなんて、できないのだ。
言い知れぬ恐怖と絶望で、私は身体を震わせながら、涙を流していた。
殿下は、そんな私に優しい言葉をかけて、なぐさめてくれた。
とにかく、どうしてこんなことになったのか、まったくわからない。
強盗に銃で撃たれたという話が、未だに信じられなかった。
お父様が第一発見者だそうだけれど、あのあと家に戻ってきて、発見したということよね?
それで、強盗が入ったと通報した。
そのことが何を意味するのか、私はじっくりと考えていた……。
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