ポケットマネー

永田の楽屋前


コンコンコン

「はい」

安藤はドア越しに挨拶する。

「すみません。私、関本多朗の秘書兼マネージャーをしております安藤と申します」

「どうぞ」

「失礼します」

ガチャ……バタン

安藤は一礼をして楽屋内に入った。

「突然の訪問申し訳ありません。今日の永田さんの御活躍を拝見させて頂き、今後、弊社のイベントに来て頂くかも知れないと思い、連絡先を伺いに参りました」

「御丁寧にありがとうございます。私も関本さんとは一度、お話をしたいと思っていたんですよ。これから、タレント事務所との交渉がありますので、後日、連絡させていただきます」

「では……」

安藤は名刺を渡す。

「ありがとうございます。一応、今掛けます」

永田はスマホを取り出し、安藤の電話番号を打ち込んだ。

♪♪♪~

「登録しておきます」

「宜しくお願いします」



翌日午後7時、某高級レストランの個室

「……と言う事なんです」

「ガハハ、永田さんはなかなかおもろいな」

「ありがとうございます」

「誰のモノマネでも出来るってのは、ホンマ便利やな」

「そうなんですが……ちょっとモノマネマスク使用に問題があるようで……」

「ん?」

「木村が脱走しているじゃないですか。その影響もあって、モノマネマスクの使用を控えた方が良いって空気なんですよ」

「永田さんやったら、そんなもん使わんでも大丈夫ちゃうか?」

「うーん……。私、顔があんまりなんで、モノマネマスクが無いと雰囲気が半減するんですよね……」


安藤は思った。

(確かに、永田さんは雰囲気こそよく似ているが、声はそこまで似ていない……。モノマネマスクが無いと雰囲気が出ず、声が似ていないという事がバレてしまうだろう……)


「永田さんは株とかやっとるか?」

「いえ、今のところ……。興味はあるので、お金が入ればやりたいなと思ってはいるんですけど……」

「ガハハ、そうかそうか。どうや? ワイの金でちょっと運営してみんか?」

「と言いますと?」

「100万円渡すから好きな株を買うんや。儲けた利益は折半で、最悪負けてしもた場合でも金はいらん」

「良いんですか?」

「モチロンや。優勝祝いやと思ってくれたらエエわ」

「ありがとうございます」

「もちろん無利子やし、永久に続けるも良し、100万円返してやめるも良しや」


関本は気に入った人物にポケットマネーから100万円を渡している。1人100万円程度なら贈与税等のややこしい問題にはならない。ただ、同じ年にまた100万円を渡したり、受け取った人が他の人から10万円以上貰ったりすると厳密には贈与税が掛かる。まあ、そんな細かい事で税務署が動くような事は無いが……。

ポケットマネーなので会社の資金では無い。だから、安藤が覚えておく必要は無いのだが、一応、自分の知る範囲で誰に渡したかを記録している。だが、利益の半分を関本に渡したかどうかは安藤には分からない。関本の話では、全員が利益の半分を出会った時に渡してくると言う。もちろん、真面目な人物もいるとは思うが、そうでない人物でも、数万円の事なので、関本との関係を繋げておく方がメリットは多いからだろう。今のところ、100万円全額を返してきた者は居ないらしい。


「今日はありがとうございました」

「まあ、困った事があったら言うてきいや。何とかしたるわ、ガハハ」

「永田さん、これから忙しくなると思いますが、お身体に気を付けてください」

「ありがとうございます。これからも宜しくお願いします」

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