関本と安藤

テレビ局

「関本さん、お疲れ様でした」

ディレクターが関本に挨拶した。

「お疲れさん。まあ、また呼んでや。ガハハ」

「お疲れ様でした」

「おう、お疲れ。安藤、今日はこれで終わりやったよな?」

「はい。ホテルに御案内します」

「その前に今日の新人王チャンピオン、永田の連絡先を聞いといてくれ。アイツを後々、うちのイベントに呼ぶかも知れん」

「承知致しました」

「そうそう、言うの忘れとったわ。株式会社ラスピーに2,000万円振り込んどいてくれるか?」

「承知致しました」



関本多朗せきもとたろうは株式会社エスソースの代表取締役。恰幅の良い体格に口髭と顎髭を少し蓄え、白髪混じりの長めの髪をオールバックにして、関西人丸出しの派手なファッションを好む。

関本は根っからのギャンブラーで、あらゆるギャンブルに負け続けてきた。どうせ破産するならと、色んな手段で金を借り、あるアパレル企業に絞り、株を買いまくった。その株を担保にして、信用取引でさらに株を買う。普通、こんなヤケクソが成功する訳が無いのだが、それが何と大当たり。だが、完全なるまぐれ当たりという訳では無い。関本は、そのアパレル企業が成功すると読んでいた。関本が目をつけた服の素材は『フリース』。今でこそ知っている人は多いが、フリースとはペットボトルと同じ素材から作られた、保温性が高く、軽量で、肌触りが良く、洗濯も可能な生地だ。当時、フリースは値段がやや高く、庶民には手が出せなかった為、一部の人しか着ていなかったのだが、あるアパレル企業が安く製造することに成功。そして、安価で販売を開始した。これは売れる、と確信した関本は、その企業の株を全力で買ったという訳だ。

とにかく関本は富豪になった。現在、総資産は100億円強。とは言うものの、株による資産なので、借金も10億円は下らない。高利子の借金は返済し終えているが、銀行等の低利子の借金は大量にある。


関本の部下、安藤大翔あんどうたいとは、関本と真逆の性格で、ギャンブル等は一切しない。色白で頬が痩ける程細く、ギョロっとした目をしているが鼻はスッと高く、上品な口元で女性にはモテる方だ。1流大学を卒業後、1流企業に就職する。株に興味を持ち、しっかりと株の勉強をした後、株を購入する決意をした。関本とは違い、自分の貯金全額の200万円でローリスクローリターンの企業の株を買った。1流企業の株は乱高下が少ない。だが、そんな矢先、安藤が買った企業の若社長が、会社の金を使い込んでいたのがバレた。海外のカジノで大敗したのだと言う。その額なんと数10億。株価は大暴落した。

安藤は自分のツキの無さを痛感した。借金こそ背負わなかったものの、今までの貯金の半分以上を失った。

そんな時、あるイベントで関本と出会う。関本は株での成功の話を、安藤は株での失敗の話を言い合い意気投合する。関本は安藤の株の知識と真面目な性格に興味を持ち、安藤は関本のツキと大胆な性格に興味を持った。

関本は自分の秘書にと安藤を誘った。現在の給料の倍額でのヘッドハンティングだ。安藤にとっては、倍額の給料と言えど、安定した1流企業からの転職には勇気が要ったが、金銭面より、関本の傍で働ける事の方に興味を持ち、当時働いていた1流企業を退職した。

関本は、安藤をファンドマネジャー(株の運用を行なう専門家)として運用を任せようと期待したのだが、安藤は自分が失敗している事を理由に断った。関本は他のファンドマネジャーにも数人依頼しているので、その人達の評価を安藤に任せる事にした。

関本は関西人気質の大胆な性格と人柄が評価され、テレビ等のメディアに取り上げられ、現在はタレント業がメインになっていたので、株の運用のほぼ全てをファンドマネジャーに運用させるように考えていた。安藤は、関本のタレント業のマネージャーと、ファンドマネジャー管理が仕事になっている。

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