舞の考え

午後2時55分、『桜の花』前

小牧と日吉は営業の邪魔をしないよう、『桜の花』から50メートル程離れて入り口を見ながら待機した。すると、エプロン姿の女性が出てきた。

「小牧さん、行きましょうか」

「ああ」

日吉が先導し、『桜の花』へ向かう。舞が2人に気付いたようだ。

「あっ、日吉さん、小牧さん」

「舞さん、お久しぶりです」

日吉が返し、小牧は会釈だけした。

「どうかされました? 木村さんの事ですか?」

「そうなんです。中で話しても構いませんか?」

「どうぞどうぞ」

舞は先導して店の中に入った。店内では舞の母親が食器を片付けていた。

「お仕事中申し訳無いです」

「あら、確か刑事さんですよね。お世話になってます」

木村が病院から逃げ出した後、警察は『桜の花』の周りに厳戒態勢を敷いた。もちろん、舞をまもる為だ。当然、舞の母親もその辺りを理解している。


「どうぞ、座ってください」

舞は入り口近くのテーブルに座るよう促した。

「ありがとうございます」

3人は椅子に座った。小牧が話し出す。

「舞さん、特にお変わり無いですか?」

「ええ、おかげ様で。ボディーガードがたくさんいますので、ふふふ」

「もちろん、木村から連絡が入ったりは無いでしょうけど、何処に潜んでいるか分かりませんので注意してください」

「こんな事言ったらダメですけど、木村さんも凄いですね。3ヶ月も見つからないって」

「申し訳無いです」

「いえ、そういう意味じゃなくて……。昔、お2人から逃げた時の事を思い出しちゃって。あの時は、私が居なかったら、どうすれば良いか分からないって感じでオドオドしてたのにね」

その時、舞の母親がお茶を持ってきた。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

「刑事さん達も大変ですよね」

「いえいえ、木村を逃がしたのは私達のミスですから」

「舞を宜しくお願いします」

母親は一礼をして仕事の後片付けに戻った。小牧は話を続ける。

「肋骨が折れてますし、あれだけ目立つ顔なんで、直ぐに見つかると思っていたんですが……」

「そうですよね、私もそう思っていました」

日吉が2人に割って入る。

「でも、絶対、最終目標は舞さんですよ」

「日吉っ!」

小牧は舞に心配を掛けるような事を言うなとばかりに日吉を叱責した。

「いや、危害を加えるとかじゃなくてですね、病院を逃げ出す理由って舞さんと話をしたいからだと思うんですよ」

日吉は焦りながら弁解する。

「私、違うと思うんです」

「えっ?!」

「木村さんって、思い込みが凄く激しくて……。チャンスがあったら、即行動しなきゃと思っちゃうタイプだと思うんです。お2人に詐欺師扱いされて、任意同行を求められた時もそうだったじゃないですか。自分に非は無くて、逃げたら損をするだけなのに、逃げるチャンスがあったから衝動的に逃げ出したでしょう? 多分、病院でも同じで、逃げるチャンスがあったから衝動的に逃げ出しただけだと思うんです。だから、逃げた事に深い意味は無いんじゃないかなぁって思います」

「なるほど」

「でも、逃げ出したからには私と話をしに来るかもしれないんで、ボディーガードお願いしますね、ふふふ」

「承知しました!」

日吉は舞に敬礼して答えた。小牧が話す。

「では舞さん、今日はお時間とらせてすみませんでした」

「いえいえ、こちらこそ」

小牧はお茶を半分程飲んだ。日吉はそれを見て、お茶を一気に飲み干した。

「それでは失礼します」


小牧と日吉は『桜の花』を後にした。

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