永田光彦

「モノマネ新人王チャンピオンは……片岡刑事のモノマネをした、永田光彦さんです!」


パチパチパチパチパチパチ


「ありがとうございます!」

「審査員の関本さん、どうでしたか?」

司会者が関本に評価を聞いた。

「いやあ、雰囲気がソックリやったんちゃうかな? ガハハ」

「いやあ、ありがとう。ガハハ」

永田は関本のモノマネをして言った。

「やるやないか、ガハハ」

「審査委員長の森田さんはどうですか?」

「素晴らしかったです。そっくりでしたね」

「ありがとうございます。このモノマネマスクは前回チャンピオン、木村さんのパクりなんですけどね」

「いやあ、でも、素晴らしかったですよ。後継者争い1番乗りですね」

「そうですね。いつか、木村さんと勝負したいです」

「では、最後に一言」

永田はモノマネマスクをつけて言う。

「事件は全て解決しました」

ワハハ! ワー! ワー!

「おめでとうございました!」



永田光彦は今流行りの刑事物ドラマの中年主人公、片岡刑事の決め台詞『事件は全て解決しました』とモノマネマスクを駆使くしして笑いをとり、チャンピオンに輝いた。永田は誰の声真似でも、少し練習すればソコソコのレベルで披露する事が出来た。だが、今回は片岡刑事のモノマネ1本で勝負し、結果を出した。2番煎じとは言え、モノマネマスクブームに乗ったのが成功したのだろう。魚のように離れた目と、脂性の肌に濃い髭の為、今までくすぶっていたが、モノマネマスク使用で化けた。


前回のモノマネ新人王チャンピオン木村一郎は婦女暴行未遂と殺人容疑で逮捕されたが、現在は病院から脱走中……。まだ捕まっていない。



翌日、警察署

日吉は小牧に話し掛ける。

「小牧さん。昨日のモノマネ見ました? 木村の真似してモノマネマスクを使った奴が新人王取りましたよ」

「ああ、見たよ。永田だったっけ? 実は、木村が整形しているんじゃないのか?」

「まあ、どちらもブ男の部類ですけどね」

「背格好も似ているじゃないか。聞いて直ぐ声真似出来る技を持ってる奴が、そんなポンポン出てくるのか?」

「でも、モノマネのレベルが違いますよ。木村は超1流。永田は雰囲気こそ似ていますけど2流ですよ」

「日吉は木村ファンだからな」

「いやいや、客観論ですよ!」

「だが、モノマネのレベルを上げる事は出来ないが、下げる事は出来るだろう? 木村がバレないように、わざと下手にモノマネをしてる事も考えられないか?」

「色々無理でしょう? 逃走中の指名手配犯が、堂々とテレビに出るとか、絶対バレますよね?」

「まあな。ただ、木村には何度もあざむかれているからな……。整形して戸籍を乗っ取っていたら……いや、さすがに無理か……」

「しかし、木村の奴、3ヶ月も見つからないって凄いですね」

「前代未聞だな……。無一文で脱走したら、だいたい防犯カメラに万引きするところを撮られて、逃走経路がバレたりするもんなんだが……」

「公園の水と、どこかの畑の野菜でも食べて生き抜いているんですかね?」

「最有力とされていた、田中舞が居る『桜の花』に近づけば簡単だったんだがな」


警察は当然、家族や親族、知り合いの家も警戒していたが、木村は現れなかった。


「小牧さん、1度、舞さんにも確認しておきませんか? 木村を見る事は無くても、何か気付いている事があるかもしれませんし……」

「お前……舞さんと話したいだけじゃないだろうな?」

「ち、違いますよ! 舞さんは結構賢いから、何かヒントになると思ってですね……」

「分かった分かった。取り敢えず行ってみるか」

「はい。では『桜の花』3時で」

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