名探偵
5分程経っただろうか、舞がやってきた。
「いらっしゃいませ。あ、舞ちゃん」
「こんにちは」
店員は舞を知っているようで、話をする雰囲気だったが「舞ちゃん」と後ろから木村が発したのを聞き、空気を読んでくれたようでキッチンへ戻った。
「木村さん、何かあったんですか?」
「落ち着いて聞いてね。今日、オレオレ詐欺? の容疑で警察官が家までやって来て、捕まりそうになったから逃げてきたんだ」
「逃げてきたんですか? 詐欺なんてやってないのに?」
「冤罪が怖かったんだ。逃げるチャンスがあったから、衝動的に飛び出しちゃったんだよ」
「それで?」
「どうして俺にオレオレ詐欺の容疑が掛かったのかを考えてもらおうと思って」
「私に?! 私、探偵じゃないですよ!!」
「相談出来るのが舞ちゃんしかいなかったんだ。舞ちゃんピンチをチャンスに変える能力あるじゃない」
「いやいや、大ピンチ過ぎでしょ!」
「俺の声真似能力が関係有ると思うんだけど……」
「最近どこかで録音とかしました?」
「テレビとかはずっと録音してるだろうけど……」
「そうじゃなくて、お金持ってきてとか、事故ったから示談金が必要だとか言いました?」
「いや、そんなシーン……あーっ!!!」
4人組のおばさんと店員が木村をジロッと見る。
「録音したよ、ラジオのプロデューサーからの仕事で」
「それで、素人っぽい男の声真似で金銭を要求するシーンがあったんですね」
「あった。事業に失敗したからお母さん300万円貸してくれないかなって」
「じゃあ、その偽プロデューサーが詐欺師決定ね」
(他に頼る人が居なかったから舞ちゃんに相談したけど一瞬で犯人を突き止めた。この子凄い!!)
「じゃあ、どうしよう。プロデューサーに電話すれば良いかな?」
「ちょっと待って呼び出すにしても作戦練った方が良いと思う」
その時、木村の電話が鳴った。誰だ? と思いながらスマホを見ると米山の名前が表示されている。
「米山さん、偽プロデューサーからだよ、どうしよう」
「取り敢えず出て、流れに任せてみれば? 多分仕事の依頼で何処かに来てって話じゃない?」
「分かった」
木村は電話に出た。
「もしもし、木村です。お疲れ様です」
「もしもし、米山です」
「米山さん、昨日の見てくれました?」
「見たよ、おめでとう。ビックリしたよ。まあ、あなたの実力だと当然だけど、あの仮面は見事だよね。感心した」
「ありがとうございます。で、今日もお仕事の依頼ですか?」
「木村さん、焦り過ぎ」
舞は小声で木村に話した。だが、木村は米山の話に集中していて、舞が言った事は耳に入っていない。
「そうなんだ、また、違う社長からの依頼でね、同じように5人の新人から決めるそうだ。今回は優勝祝いに20万円でお願いするよ」
「そんなに頂けるんですか。ありがとうございます」
「俺も、あなたが優勝して鼻が高いよ。社長にも紹介しやすいし」
「承知しました。今からオフィスへ向かえば良いですか?」
「直ぐ来る事出来る?」
「30分ぐらいで着くと思います」
「待ってるよ」
「承知しました。失礼します」
木村は電話を切った。
「よし」
「上手くいったね」
「じゃあ、駅に向かうよ」
「駄目よ。逃げてきたのに駅なんか絶対見張ってるわ」
「じゃあ、どうしよう」
「もうすぐお母さんがここに車で来てくれるから、それで行きましょう。そんな事だろうと思って、呼んでおいたから」
その時、ちょうど舞の母親が店内に入ってきた。
「いらっしゃいませ。あ、こんにちは」
「こんにちは」
「あっ、お母さん早かったね」
店員は舞の母に気付いたが、舞が話し始めたので空気を読んで距離をとる。
「早かったね、じゃないわよ。どうしたの、血相を変えて出ていって。」
「取り敢えず、隣町まで送って欲しいの」
舞が母親に話している時に、母親は木村に気付いた。
「あっ、木村さん。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「いや、ちょっと立ち話してる暇ないのよ。お会計お願いします」
木村と舞は冷めたロイヤルミルクティーを尻目にオレンジジュースを一気に飲み干した。
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