田中舞
「田中さん?」
「すいません、ちょっと遅れちゃいました。結構待たせちゃいました?」
「いえ、今着いたとこですけど……」
「どうかしました?」
少しメイクをして服を着替えただけのようだが、見違えるほど美人になっている。白っぽいロングのスカートで茶色い長袖の服。足元は上着と同じ色の低いヒールのサンダルを履いている。顔のパーツが全体的に小さく、上品なイメージを持っていたが、メイクアップで印象がガラリと変わった。当然、木村は女性の化粧に詳しくないので付けまつげとチークをしたぐらいしか分からないが、とにかく、地味な印象からモテそうな女性の雰囲気に変わっている。
「女性は変わりますね。美人過ぎて別人かと思いました」
「ふふふ、お上手ですね」
「今、ちょっとトラブルがあって、デートプランを決められて無いんですけど、取り敢えず7時にお店は予約しました」
「そうなんですね、じゃあ歩きながら決めます?」
「そうしましょう。駅の方にでも歩きましょうか」
「ところで、ふと疑問に思ったんですけど……」
「はい?」
「あ、その前にお名前伺っていいですか?」
「あ、ごめんなさい。木村です、木村一郎です」
「田中舞です。宜しくお願いします」
田中は握手を求めてきた。
「宜しくお願いします」
木村も握手で応えた。そして、田中へ質問する。
「あ、さっきの話何でした?」
「木村さんてそんな素敵な声でした?『桜の花 』で注文する声と変わってません?」
「ああ。私、声を変えられるんですよ」
「えっ!?」
「声帯模写って言うんですか? 1度聞けば、その人の声真似が出来るんです。流石に男性だけですけど、低い声の女性でも真似できるかも」
「へえ~、そんな凄い特技を持ってるんですね」
「だから、今はデート用に、声が魅力的で有名な三浦アナの声です」
「あ~、あの人気のアナウンサーか。って、めちゃくちゃ似てません?」
「でしょ。だから、今、モノマネタレントを目指してオーディションとか受けてるんです」
「そんなの1発合格じゃないですか」
「でも、どうも落選ぽいんだよ……」
「どうしてですか?」
「まあ、初オーディションで緊張してたってのもあるんだけど、面白おかしく誇張したりは出来ないし、音痴なんで歌真似も出来ないし、あと顔も問題がありそうなんだよね」
「顔って……。テレビに出てる人、皆が皆、美男美女じゃないでしょう?」
「まあ、そうだけど、あんまり顔が悪いとモノマネが入ってこないじゃない。モノマネのプロって出来るだけメイクで本人に近付けたりするけど、この顔じゃかけ離れちゃうし」
「う~ん、そんなもんなのかな? でも、顔が原因ってならマスクすれば解決ですね」
「いやいや、いつもマスクにサングラスじゃ、テレビに出られないよ」
「マスクってそのマスクじゃないですよ、仮面のこと」
「仮面?」
「そうそう、モノマネする人の仮面をつけるのよ。そうすれば、顔は隠せるし、雰囲気出るし、一石二鳥でしょ」
「!」
木村は、田中の言う通りだと気付いた。悪いところが1つも無い。自分のバカさにも呆れたが、瞬時に答えを出す田中を相当賢いと思った。
「どう?」
「いや、凄いよ。田中さんの言う通りだ。田中さんて賢いんだね」
「いえいえ、普通ですよ。何か悪いところがあったら直す方法が無いかを考えるのが好きなんです。短所を長所に変えるような……」
「ふむふむ」
「私ってそんなに美形じゃないんで、小さい目とかどうしたら魅力的になるかなとか考えてメイクする様な事が得意なんです。木村さんにも褒められましたしね、ふふふ」
「なるほどねぇ、それってステキな能力だよね」
「でしょ? 木村さんの声真似能力にも負けませんよ」
「ははは。そうか、よし、やる気が出てきたよ。モノマネマスクか。カッコいいな」
「知り合いに 3D プリンターを扱っている人がいるんで相談してみましょうか?」
「えっ?! そうなの? お願いして良いかな?」
「引き受けてくれるかは分かりませんが、連絡とってみます」
「ありがとう」
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