第3話 失いたくないから

 純平くんにこんなことするとは思ってもいなかったので、食べさせてあげてるだけなのに私の頬が紅潮する。


「もう、今回限りだからね」


「えぇー、別に減るもんじゃないし、そんくらい良いじゃん」


 全く、何を考えて発言しているのだろうか? 純平くんには可愛い彼女がいるというのに・・・・・・。


 でも、こんな恋愛ごっこみたいなことをさせられている私からしたら、思わず純平くんに対する本音を吐露しそうになったじゃないか。


「今は良いんだけど、他では無しだよ。彼女さんに見られたら良くないからね」


「はーい! 分かった」


 そういうと、素直に返事をしてくれたけど、何処か寂しげな表情をしている。


 ・・・・・・彼女と喧嘩でもしてるのかな? その時の彼の寂しげな表情からは何も汲み取れ無かった。


「ねぇ、なんか暑くない?・・・・・・」


 食後、急に暑さを感じて額から汗が出てくる。


「ごめん、エアコンの調子が悪いのかもしれない。ちゃんと冷房に設定されてるんだけどね。他の部屋は大丈夫だし、もし明日も調子悪いなら叔父さんに連絡するよ」


「うん、そうしよう。 じゃぁ、私汗かいちゃったから先にシャワー浴びるね」


「えっ、ちょっと待ってよ!! 今からお風呂作るから一緒に入ろうよ・・・・・・」


 また、おかしな事を言ってきた。でも、私達はカップルじゃあるまいし、それは出来ない。


「何言ってんのよ。無理無理無理、絶対無理だからね」


「そうなんだ残念だなぁ! 子供の頃は一緒にお風呂入ってたから、お風呂くらい織り込み済みだったのに」


「何で織り込み済みなのよ! 私達もう大きいのよ。それに幾ら幼馴染だって言っても、2人共パートナーいるんだし、そもそも一緒にお風呂入らないって約束してたじゃない。」


「ごめん、やっぱりそうだよね。もうあの時とは違うもんね。それに、約束してたね」


 純平くんは謝ってくれている。心根の優しい人だから、悪気があるわけじゃないのも分かっているので、私はにっこり笑って許してあげた。


 その後、別々にお風呂に入った後、私達は一緒にゲームで盛り上がった。リビングのエアコンはたまたまオフになってしまっただけで、効きが悪くなった訳じゃないらしい。


「わぁーい、純平くんと同等に対戦できてる。嬉しー!!」


「ちくしょう、美久更に腕を上げたな! こんな短期間で上手くなるとか神ってるんだけど」


「えへへ、どんなもんだい!」


 こうして、夜遅くまで遊ぶと、私達は別々の部屋で寝ることに・・・・・・。


 用意されている布団は高級感のある布団で、ホテルのようだったけど、私は今日の出来後を思い出し、中々眠れなくなっていた。


 だって、あんなに沢山デートみたいなことしていたら、やっぱり色々意識してしまう。


 私にしっかりした理性がなければ、どうなっていただろうか・・・・・・。


 ──数年後。


 私達はもう20歳を越えた。


 私は美容の専門学校に進学して、彼は大学に進学し別々の進路へと突き進んでいく。


 お互いパートナーがいたけど、気の合う純平くんとはたまにメールしては、いつも通り恋愛の相談も良くしたし、たまには一緒に遊んだり、お酒も飲めるようになったので飲み屋に行くこともあった。


 何より、三十歳になった時、もし私が一人だったらお嫁に貰ってくれる約束をしているから、純平くんのお陰で恋愛で失敗してもそんなに辛くはならなかったのかもしれない。


 ──二十六歳の時だった。


 何故か同じ時期にお互いパートナーに恵まれて、結婚することになる。


 一緒に飲み屋に行った時、私から結婚の報告をすると、彼は一言「おめでとう」と言った後、自分も結婚することを教えてくれたのだ。


「純平くんも結婚するんだね! まさか結婚する時期が同じだとは思わなかったよ。おめでとう」


「うん、同じだとは思わなかったよ。でも、三十になる前に二人して結婚とは・・・・・・結果としては良かったのかな」


「そうだよね。高校生の時、三十歳になっても結婚出来なかったら、私の事貰ってって口約束してたけど、ならなかったね。えへへ」


 お酒の酔いもまわってか、私は昔の思い出話を話し出すと、彼は無言になってしまった。


「あれ、どうした? もしかして今の覚えてなかった? そりゃ無理もないよね。だって口約束だったんだもんね。えへへ」


「違うよ・・・・・・」


「えっ!? 何だ、覚えてたのか・・・・・・」


「覚えてたよ。ってか、あの時、本当は美久のことが好きだったんだよ。ずーっと好きだった」


「うそっ!?」


「嘘なわけ無いよ! これは本当の話。泊まりに行った時、好きって言いそうになったんだから」


「そうだったんだ。言ってくれてありがとう」


 純平くんとの帰り際、歩道橋の上を一緒に道を歩きながら、私はふと空を見上げる。


「ねぇ、純平くん空みてみなよ。今日は星が沢山見えるよ」


 そういうと、純平くんは立ち止まり空を見上げた。


「本当だ、凄く綺麗だね」


「あのね、私も本当はあの時純平くんのこと好きだったよ。大好きだった」


「えっ!?」


「嘘なわけ無いじゃん。本当だよ。じゃぁ、また連絡するね。私今日実家には帰らないからさ・・・・・・またね。もし、お互い離婚することがあったら一緒になってよね。えへへ」


「良いよ! まぁ、多分そんなこと無いと思うけどそん時は宜しくね。じゃぁ、またな!」


 彼の少し寂しげな後ろ姿を見送る。


 ──その後一人になった帰り道。


 両思いだった事を知った私は、彼と別れてから嬉しさと悲しさが込み上げながら一歩一歩前に進んだ。



















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失いたくないから幼馴染のままが丁度良い 東雲三日月 @taikorin

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