第2話交通事故
その事故は突然のことであった。
私の中学卒業祝いを兼ねて、父の実家に遊びに行くことになっていた。
父は某市のそこそこ有名な寺の次男として生まれた。実家には認知症が進み住職としての勤めができなくなった祖父と、その祖父を介護する祖母。そして住職としての修行を投げ出し家出同然で東京に出て夢破れて帰ってきた長男がいる。
私からすると叔父になるのか。
車の中で母が言う
「光一さん、お寺を潰して探偵事務所にしたって本当なの?」
「ああ、母の話だとそうらしいんだ、親父が認知症になったのをどこからか聞きつけていきなり帰ってきて、俺はここで探偵をやるっていい始めたんだって」
父が不満そうに言う。
その後も叔父の悪口は続いた。
なるほど、この食事会は私の卒業祝いが表向きで叔父がやろうとしていることを止めに行くのが真の目的だったのだろう。
しかし私は心の中で思った。
あんたたちも一緒だろうと。それは前に母に聞いたことがあるのだが、父浩二は大学生時代に同級生であった母と出会い私を身篭った。
祖父は昔かたぎの人間だったのでいわゆる出既婚に納得がいかず結婚を猛反対した。
そして父と母は駆け落ち同然で家を出て結婚をしたとのことだ。
そんな話を美談のように話す母もどうかと思うが、その結果跡継ぎがいなくなったお寺は叔父の暴走関係なく潰れていくことになっていたであろう。
さて、そんな私にも問題があった。
私はいわゆる問題児であった。人と関わるのが嫌いで小学生の時からけんかばかりしていた。そのたびに母は学校に呼びだされて謝罪をしていた。
中学にあがった後は相変わらず喧嘩をしたりサボりをしたりとしていた。髪の毛は金髪に染めて、ピアスも開けた。
初めは教師もなんとかしようとしていたが次第に私に触れないことが正解と答えがでたのか、干渉もしてこないため特別不自由はなく過ごしていた。
父は仕事人間のため私の素行の悪さには特に興味を示さず、髪を染めようがピアスを明けようが何も言ってこなかった。
車が進んで叔父の話も終わった頃、父が言った「由梨、中学は楽しかったか?高校楽しみだな」
何だその質問はと思ったがとりあえず
「まあね」
と一言答えた。
父は満足そうにうなずいていた。
おい、何だその顔はとイライラが募ってきた。母がそれに気づいたのか
「由梨ちゃん、おばあちゃんに会うのは久しぶりよね」
駆け落ち後も祖母との関係は続いていた。最後にあったのは小学校卒業以来か。
今の私の姿を見たら祖母はどう思うのだろうか。
父の実家まであと少しのところであった。前方から大型トラックが突っ込んできたのだ。
父と母の絶叫が聞こえたのは覚えている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます