4話 「当てはあるのかい?」
「アタシの赤い糸を繋げたら、恋愛禁止にしないでくれ、だって?」
彩子が怪訝な顔で睨みつけてくる。
「そっ。俺らがきちんと恋愛審査やっていますっていう証明にもなるし」
「馬鹿馬鹿しさも極まったね。大体、その赤い糸とやらはアンタにしか見えないんだろ? そんなものが繋がったかどうかなんてどうやって判断するんだい?」
確かに、と緋音は思った。赤い糸は遼太郎にしか見えないのだから、それを証明するのは無理な話だ。
「いやぁ、それはアンタが恋が叶ったって思ってくれたらでいいっすよ」
「ふんっ!」不機嫌そうに鼻で笑って、彩子は踵を返した。「好きにおし!」
「あ、それはこの条件を呑んだってことでいいですか?」
「いいさ。やれるもんなら、な。アタシは何も言わないよ。少なくともそれまでは恋愛の新規申請は認めないからね! 以上ッ!」
彩子は杖を突きながら部屋の外へ出ていった。その間も緊張の糸が奔っていたが、彼女の姿が見えなくなった途端に一気に解けた。
しばらくして、緋音が口を開けた。
「どうすんのよ、遼ちゃん! あんな条件吞んじゃって!」
「あぁするしかないだろ。どのみち、このままじゃ恋愛禁止に逆戻りだし」
「でも、その相手をどうやって探しますの? アルバニアさんが調べてもあまりデータがなさそうですし……」
「当てはあるのかい?」
闇樹と蒼空も心配そうに聞いてきた。
「当て、ってわけじゃないけどな」そう言って遼太郎は窓際にやってきた。「ちょっと気になることはあるんだよね」
「……気になること?」
「いやね、あの婆さんの赤い糸はこの部屋に入ってきたときからずーーーーーっと、あっちのほうを指していたんだよね」
遼太郎は窓の外を指さした。
――で?
緋音は困惑気味に頭を抱えた。
「いや、それがどうしたっていうのよ?」
「ずーーーーーーーーーーーっと、あの間、婆さんの小指に繋がった糸はあっちのほうを指していた。全く、動きもせずに、ね」
「それがどういう――」
そこまで言おうとした瞬間、蒼空が何やらはっと気が付いたような顔になった。
「そうか! その相手はずっと動いていないってことだね!」
「動いていない?」
「そういうこと。人間ってのは、常に動いているものだから、赤い糸がずっと同じ方向を指すってことはまずないわけ。例え遠くにいる相手でも少なからず糸の先は細かく動いているはずなんだけど、あの婆さんの糸は動いていない。つまり――」
「……まさか、相手は死んでる、とか?」
緋音が青ざめた表情で放った言葉に遼太郎はずっこけた。
「いやいや、そうじゃねぇよ。死んだら赤い糸は消えるから! そうじゃなくて、相手はずっと動かない、つまり寝たきりの状態である可能性が高いってことだ」
「あー……」
ようやく緋音も納得したらしく、ポン、と手を叩いた。
「でも、それだけじゃ探すのは難しいですわね」
「そうなんですよね……。あのさ、木虎。念のために聞くが、あっちの方向に寝たきりの高齢者がいるような施設や病院はあるか?」
遼太郎が尋ねると、アルバニアがタブレットを静かに動かした。
しばらくの緊張感が奔った後、アルバニアは画面をみんなに見せつけてきた。
「……ひとつだけ、ある。彩央総合病院」
アルバニアが言い放つと、緋音はまたもや頭を抱えた。
「彩央総合病院……って、待ってよ、この町で一番大きな病院じゃないッ!」
「そうなるな」
「あのねぇ、あそこにどれだけの患者さんが入院していると思っているのよ! まさか、一人一人しらみつぶしに探すつもり⁉」
「そうするしかないだろ」
淡々と言い放つ遼太郎の態度に、緋音は脳みその血液が回転するぐらいの頭痛を覚えた。
彩央総合病院、おそらくこの町どころか、近隣の市町村を合わせても一、二を争う大きな病院である。そこの入院患者を全員当たるとなると、気が遠くなる話だ。
「第一、まだそこにいるって決まったわけじゃない。自宅で介護されている寝たきりの老人とか、案外ただ昼寝していただけって可能性もあるからな」
「ねぇ、遼ちゃん……いつになったら、恋愛解禁できるのかな?」
緋音は深いため息を吐いて、魂が抜けたように呟いた。
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