夢への旅路 暴君 不沈艦

 最後の直線に入った。再び前には真っ白な世界。




 たった、一人と一頭、誰も踏むことの無い先頭に立っている気がしていた。




 周囲の音が気にならない。




 片倉さんに聞いたことがあった。相棒を見つけた時、人馬一体の景色が見れると。




 そして、直線を一気に駆け抜ける。




 パワーと脚の回転が段違いだった。




 そして、気が付けば・・・ゴールしていた。2位と7馬身差をつけて・・・勝利を飾った。




「うっし!!」


馬上で俺はガッツポーズをして叫ぶ。


『ブモォ~!!』


「ううぇ!?!?」


調子に乗っていたら馬上からヴェッセルに振り落とされた。


『ブモォ~!!』


「はっ・・・ハハハ・・・」


この後、めっちゃ遊び相手することになった。




 新馬戦を勝ち、その後、レースも特になかったので俺は寮に戻りベッドの上で転がりまわっていた。


「はぁ~。何だったんだろ?あれは。」


一瞬で何が起こったかは分からなかったが今日一日で起きたことは、去年新人最多勝記録を更新した時よりもはるかに高い衝撃を覚えた。


「あいつの近親馬たちは・・・」


近親馬と言うべきなのだろうか?まぁ、実際従妹みたいなもんだしね。良いか。あいつの兄であり現在、二冠馬アンオーリブそして、初代ステマ配合ドリームステイ。


 そんな中で、ヴェッセルはこの二頭よりもはるかに違う・・・いや異質なモノだった。才能の粗削り・・・そんなのはすでに無かった。逆に洗練されている部分がたくさんあった。


 皇帝や英雄。その二頭は2歳時点でダービー馬とか呼ばれていた。


「あの豪脚は・・・素質とかそんなものなのか??」


「さぁ・・・どうなんだろうか?」


こいつはこの新馬戦で二つ名を貰ったという。数少ない観客は『白い豪脚』と名付けた。まぁ、それ相応の名前にふさわしいし・・・良いんだけど。


 ちなみに俺もこの騎乗から後々のレースにかけて『紫電の皇帝』と呼ばれる羽目になる。・・・もう少し、厨二病感の無い二つ名にして欲しかったと年を取った後の俺は身悶えすることになるがまた別の話。




 そして、二か月が経ちそうな頃、日本にいるアンオーリブは次走を凱旋門賞に定めると言っていた。


「何でだ?三冠目前で・・・何故凱旋門賞に。」


「あぁ、そのニュースか。」


「春原さん。これは一体・・・」


「まぁ、こいつの前走って分かるよな。」


「確か、札幌記念ですよね?」


札幌記念、G2レースであるが、日本では珍しい洋芝を使われているため、普段よりもレースの予想が難しかったりする。(適正とかの問題)


「それで、オーリブが大差で勝ったことからオーナーが凱旋門に行くってか。」


「そんな感じだ。それと、こいつだったら日本初めての凱旋門賞馬になるかもって期待も込めてな。」


「はぁ~。三冠の夢さえ捨ててですか。」


「そこなんだよな。何で・・・んなことするのか?」


「そして、つい最近の情報だオーリブがニエル賞を完封したらしい。」


マジかよ。確かに凱旋門賞のデータは3歳馬が一番勝っている。まさかそんな中でニエル賞を完封って相当な脚だってことだ。


「あぁ、そうだ。ヴェッセルの次走が決まったぞ?」


「ちなみに何処で?」


初秋を迎えて初のレースは何処なんだ?


「次走は・・・芙蓉Sだ。」


「まぁ、いいんじゃないですか?」


「実は、この前の出走で分かったが前走の1600mだと不完全燃焼だったろ?


 だからな・・・・距離を伸ばして2000m行くぞ。」


この時、俺は少しだけ血を滾らせた。


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