白金の船は沈まない

 後ろからのレースとなり周囲のことをよく見ていく。一番前には人気薄だが穴馬になっているワグレスト、アトラクトがその後ろを追走する形になっている。


「やっぱり中団にいたか。」


そして、ゲットウィング、ディープフロウは五番手、六番手の位置に追走をしていた。やはり先行馬が多い印象だ。


「しかしな・・・」


走っていて思った。ヴェッセルにこの距離があってるかどうか・・・懸念するところはそこだけだ。




 その時だった。


「えっ!?」


第三コーナーに入る直前ヴェッセルは一気に後方から追い込みを始めた。それを見たほかの集団は完全に動揺していた。


(とか言って、俺もかなり動揺してるからなぁ~)


しかしそんな考えもヴェッセルには通じることも無く何ならご機嫌よく追い込みのスパートを上げていく。


 第4コーナーを手前にしてヴェッセルは大外をぶん回して前3番手に付いていた。折り合いも悪くなかった。そして馬なりにずっと動かして、マイペースに任せていたからだろうか?まだ、余裕がある。


「ふぅ~。そろそろだ。」


中山競馬場、そこの直線は日本の競馬場の中で直線がかなり短いコースだ。


 310mでありさらに急坂であることに中山はトリッキーなコースだ。そう、俺は今少しだけ懸念している。それと後悔もしている。


(行ける・・・でも、持つか??)


そんな時だった、ほとんどの馬がヴェッセルに追いつくがためにペースを上げ始めていく。


馬群が乱れ、半分くらいの馬たちが一杯になっていた。


(やっぱりか!!)


後ろを少しだけ見渡すと、縦長になっている馬群の集団をすり抜けて一気にあの二頭・・・そして、影は薄いがこちらも期待されている馬ゴールドバスターが一気に差を縮めていく。瞬間、視界から全てが消えた。


だけど・・・


進みたい・・・


まだ、こいつは力を出し切っていない!!


確信した。


力はまだ発揮できていない!!


そうして、下り坂から上り坂へ最後の直線へ・・・




 4強の火蓋は切って落とされた。




 その駆けろ音は二歳馬が走っている音ではないと数少ない観客は言っていた。




 ターフを抉り3冠を夢見て




 最後の直線へ4強が並んで前へ躍り出た。他の馬は約3馬身以上の差が付いていた。

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