張り切りすぎてしまったのです。
◆汐栞―― ついに日曜日なのです。
◆汐栞―― どこで描きますか?
その件でメッセージを送ってきたようだ。
◆凪―― 海ばかり描いてたから。
◆凪―― 近くでいいんだけど。
と凪は返信した。
元々知らない人の車に乗るのも考えものだ。
そう凪は考えていた為遠慮しているのだ。
◆汐栞―― 海ですか。
◆凪―― 鎌高前とかは?
(ここなら車でなくても行けるし)
◆汐栞――
◆凪―― そう。映えーっ。
◆汐栞―― エンジェルウィングて知ってますか?
◆凪―― いや知らない。
それにしても汐栞が映えーっとは中々腹筋に来るものだ。
と、凪はお腹を抑えて
数分感覚があき、
◆汐栞―― 分かりました。
◆凪―― はいはい。
◆汐栞―― 凪くん。
◆汐栞―― おやすみなさい。
◆凪―― おやすみ。
◆凪―― まさかコスは無いよな?
寝るには随分と早いな。
と凪は暫く待っていたが、汐栞からの返事は来なかった。
真司の言ってた「気になってるんだろ?」
今回のタイミングなら……。
※
国道134号沿い。
凪の住む家のすぐ近くにある国道。
汐栞の家に行くならこの道を西に行った先を……。
車でそこからずっと東に向かうと見えてくる駅。
江ノ電鎌倉高校前駅。
言わずもがな映えーっの名所らしいが。
あまり凪には映えーっは興味はないのだが。
ちなみに茅ヶ崎からなら。
茅ヶ崎〜藤沢~江ノ電鎌倉高校前の行き方だ。
更になのだろうか、凪も普通の常識は持ち合わせていると思っている。
まさか駅ホームや国道沿いで描き始める訳にもいかない。
凪は駅近くの砂浜に良さげな場所があればそこに陣取る予定だ。
久しぶりの目的地を念の為――凪は確認していると、
「おはようございます」
汐栞の小さな声と共に玄関が開かれる音がした。
事前に「開いているからどうぞ」と凪は言っていたのだが。
日曜日朝早くに汐栞が来たわけで、この時間はまだ夏海は寝ていると思われる。
凪も静かに、そして大きな荷物を持ち家を出ていく。
既に玄関外で待っていた汐栞を目にした凪が、
「う、うまく言えないけど可愛いな」
凪は女の子を褒めるという行為に突如うってでた。
ハウトゥー系のWebサイトで見つけ一手。
汐栞の姿、服装を見ての褒め言葉。
チェック柄の肩掛けワンピース。
腰元は後ろで締められているのか細身がハッキリわかる。
トップスは無地の長袖を着ている。
それを見た凪は早々にハウトゥーを使ってしまったということだ。
本日快晴なり。
凪の視界には雲ひとつ見えない青空。
だが本人の心中は台風の目の中といったところだろうか。
「……」
汐栞は珍しくいつもの口癖を声に出す様子がない。
凪は「ほっ」と安堵し空いている片手を差し出した。
するとちょんっと凪の手を握った汐栞が、
「凪くん、荷物を取ってきます」
「? わかった」
凪はすっかり忘れてしまっていた。
送迎の次郎丸の存在を。
そして汐栞の手に荷物らしきものが無いことに気が付かなかった。
汐栞に手を引かれたまま家の裏道路に止まっている一台の塊を目にした凪は。
「……装甲車」
と一言呟く。
その声を聞いた汐栞が「す、すみませんすぐに……」と。
どもりながら凪の手を離し、鉄の塊の車から小さめの鞄を取り出した。
おそらく中にいる次郎丸と話しているようだが凪には聞こえなかった。
凪が感じた装甲車。
その車が走り去っていった。
凪の元へ駆け足で汐栞は近ずきながら、
「荷物が多すぎたので、持って帰ってもらいました」
「え、でも良かったの? それに荷物って……」
凪が疑問を投げかけると汐栞は答えるまもなく凪の手を握る。
そして「大丈夫ですよ凪くん」と笑顔で答えた。
凪としては知らない車に乗らなくて済む助かる話ではあるが。
凪は「ふぅ」とひとつ大きく息を吸い込み汐栞の手を引いて駅へと向かっていく。
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