文化祭の打ち合わせです。
「なっちゃん! ごめんなさい。お夕飯作るの忘れてました。時間……食べる時間ありそうですか?」
「ありがとうぅ
「えと私が悪いんです……」
「ええ? そんなこと言ってたっけ?」
「なっちゃんそれは……」
「あっごめんねぇ。じゃ行ってくるねぇ」
汐栞が床で転げ回っていた頃から少し。
汐栞は突然居間に向かい夏海と晩飯に着いて話しているようだった。
「なっちゃん行っちゃいました」
しゅんとしながら汐栞が部屋に戻ってきた。
「俺も忘れてたよ飯のこと。駅前とかで済ませてくれるだろ」
「だといいのですが」
「それよりもだ汐栞っ」
「は、はいっ!」
「俺の絵」
「……」
「はぁ。見たいならこそこそせず言えばいいのに。って座ってよ。怒ってるわけじゃないんだ」
汐栞は「えへへ」と申し訳なさそうに少し猫背でいつもの椅子に腰掛けた。
「えとごめんなさい。それで美術室に凪くんの絵を飾れないかなって思ったのですが」
「文化祭だっけ」
「
「部活としてってことなんだろうか」
「だと思いますけれど。でもいっぱいの人に見てもらいたいですっ。凪くんの絵を……」
うーん。
「そうだっ!」
と汐栞は手を大きく叩き何か閃いたのか、続けて、
「色々なところに行きませんか? そこで文化祭の絵をかきためましょう。出来れば私もその絵の中に……」
「うーん。あまりこんなこんなこと言いたくないけど……そんなに何度も遠出できるほどは……」
バイトもしてないし。
「凪くん。嫌ならキッパリハッキリ言ってください」
「ん? いや――」
「あ、いえ。じゃなくて。うちの車でと考えたのです」
そゆことか。
「さすがにそれは気まずいというか、なんというか」
「次郎丸。えとうちの……そう「使用人」なら平気ですよっ」
なぜか少し考えながら使用人を強調した汐栞。
「使用人ねー。しかし凄いな汐栞んち」
「……また敬語とか丁寧語はダメですよ。とにかくです。日曜日からでも行きましょう。ね?」
だんだんと床をにじりよってくる汐栞に負けてなのか凪は、
「あー。分かったよっ!」
「はいっ! 楽しみですっ。いつ死んでも生き返れますっ!」
「死に戻りかっ」
「凪くん。オニがかってますね」
「その演技は辞めなさい」
凪に言われ不貞腐れる素振りの汐栞は椅子に戻り口を尖らせている。
凪はその仕草に少しだけ『慣れ親しみ』という言葉が正しいかはわからいが、そんな曖昧な気持ちになっていた。
※
翌日の放課後、凪は保奈美に確認した後生徒会室へと来ていた。
「グループでも伝えてた件だが」
早速凪はたまたま居合わせてた六花へと相談を始めた。
「うんうん、大丈夫だよっ。承認は会長になるから明日以降になるけど、凪少し待てる?」
「あーうん。ところで真司は?」
「さぁ? わかんない」
「へぇ」
普段、真司か汐栞と過ごす事が多いであろう六花。
凪も慣れてはいたが二人きりになると困りものだ。
救いは話したことも無い生徒会メンバーや会長がいないことでもあるが。
「よしっ! 私の仕事はおーわりっ。帰ろ?」
「は? 意味わからんのだけど」
「いーじゃん、友達なんだし」
「いや汐栞、待たせてるし」
「ふーん、いっ……いやうん。わかったっ!」
「ならさっきの頼んだぞー」
「あいあいー!」
六花は持ち前の明るさなのか元気よく手をふっている。
そんな六花を残し凪は生徒会室をあとにした。
凪が美術室の扉を開けると少しだけ風が廊下へと流れたのがわかった。
美術室に入ると汐栞はその静かな風が吹き込む窓の外を眺めていた。
微かに揺れる汐栞のその長めの髪――に凪は少し。
いやだいぶ
「おかえりなさい凪くん。保奈美ちゃん先生は先にでました」
汐栞は凪の気配に気がついたのか振り返り、揺れた髪を耳にかけながら教えてくれた。
「……そっか。いやうんただいま」
「どうしました?」
凪は自分が固まっていたことに気が付き慌てて顔を背けてしまう。
汐栞は窓を閉めながら「大丈夫ですか?」と。
「大丈夫。ありがとう。真司がいなかったから六花に渡してきたよ」
「そうですか。良かったです。六花はいつもどおりでしたか?」
「? うん多分? あんま六花のこと知ってるわけじゃないからな」
「そう、でしたね」
「なんかあった?」
「いえっ、何もありません」
やはり凪は六花について聞かれても善し悪しなどわからない。
汐栞も特に変わった様子も見せていない。
特に気にすることも無く美術室を後にした。が。
凪が帰りながら考えていることと言えば、今は隣で歩いている、先程の汐栞の後姿だった。
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