私には無理な話だったのです。

「久しぶりの部活だなあ、夏海なつみの息子よ!」


 なぎさの肩をガシガシ掴み大声笑うのは担任兼顧問の保奈美ほなみ

 テスト期間も終わり部活再開である。


「はぁ」


 凪が一言溜息混じりに保奈美へと返事をすると、


「先生。ここいっぱいに凪くんの絵を展示して人を集める事って出来ますか?」


 最近凪に対し明らかに様子がおかしかった汐栞しおりが、凪の座る隣に椅子をずらし、そこに腰かけ保奈美に尋ねた。

 ただどちらかといえば最初の頃の方がおかしかった。のかもしれないとも思っている凪。


「この壁にか?」

「はい。壁いっぱいにです」

「えっ?」


 凪は汐栞の意図する事が理解出来ず驚いてしまった。

 その二人の光景を見ながらか保奈美が、


「なら文化祭でやればいいんじゃないか? 間に合うのかは知らんが」

「ちょ、保奈美ちゃん?」

「凪くんの絵を見ればたくさんの人が喜びますよ?」

「たくさん……って兎とメイドを?」

「え? 風景画いっぱいあるじゃないですか」


 汐栞は何言ってるの?凪くん。

 とでも言いたげに首を傾げながら不思議そうに凪へと答えた。

 その様子を見た凪は汐栞を真似てなのか、


「汐栞はなにを言っているんだ?」

「あっ……」


 と思えば両手を口にし「知らない事になってました……」と。

 汐栞の手からは完全に声が漏れている。


「何してんだお前たち……」

「いや、なんでも無いです」


 凪は軽く横に首を振りながら保奈美に答え、隣に目をやり「夏海か」と呟く。

 すると汐栞は「ビクッ」と身体を跳ね上げ気まずそうにしていた。


 (なるほどね……)


「よく分からんが、文化祭で何かやるなら生徒会に許可書を出しとけよ。内容は二人に任せる」


 保奈美から文化祭の話を切り出されるとは困ったものだ。

 そんな新たな悩みが増えてしまった凪。

 更には汐栞の行動がだんだんと意味不明になってくる。

 凪はなんだか暗い気持ちになりながら珍しく部活終わりまで『指導』してくれた保奈美の話を聞きながら部活の時間を過ごした。

 汐栞はだんまりを決め込んでなのか、ほぼ無言で過ごしていた。


「汐栞さん?」

「にゃいっ!」

「にゃって……」


 久しぶりに二人並んで下校している凪と汐栞。


「は、はい凪くん」

「あのさ、最近ずっとおかしかったのはなんで? 俺なんかした?」

「え、え?」

「メッセージも変だったし、学校でも……」

「メッセージ……ですか」

「なんだからねっ、……とか。ってどした?」


 隣にいるはずの汐栞が立ち止まり俯いている。


「凪くんが……喜ぶかなって……」

「はい?」


 未だ汐栞は顔を上げず、


「あのっ!」


 突然大きな声で叫んだ。

 それに凪もつられてか、


「は、はいっ!」


 と、ビシッと身構える。

 すると少し震えているのかわからないが……、


「凪くんはツンデレってご存知です、か?」

「え?」

「凪くんはツンデレって知っていますか?」

「うん。一応は……」

「好きかなって。思ったのです。男の子は、そのツンデレが」

「はぁ」

「少し素っ気なくするのが良いって見たのですっ。うぅ」


 汐栞は恥ずかしいのか謎な吐息をもらしている。

 その彼女を見た凪は汐栞と同じくその場で俯き、


「たしかにずっと考えてた。かも」

「ふァっ!」


 凪が顔を上げると汐栞は目を丸くして今度こそ震えていた。


「汐栞」

「あばばばばばっ……」

「あー」


 凪はだいぶ汐栞のいつものフリーズにも慣れた様子。

 だけどこれ以上はかっこいい台詞もでてこない。

 凪は両手で顔を隠しもだえている汐栞の左手を掴み、また歩き出したのだった。


 勿論あの日のように汐栞がその後どんな表情をしているかまでは、凪には知る由もないこととなったが。


 後ろへ振り向けない凪の心臓は激しく鼓動していた。


 ※



 家に着いて暫くすると凪もようやっとか落ち着きを取り戻していた。


「凪くん!」

「はい」

「このメイドの絵可愛いです」


 凪が座るデスクチェアの隣でキラキラと喜ぶ汐栞。

 彼女は白黒メイド服の水色ボブカットのイラストを見ている。


「ありがとう」

「もう凪くん。もっと自信持ってください?」

「そのなりきるのは癖? 演技?」

「はい。自信がつくといいますか。心置き無く凪くんを褒めちぎれるのです」


 頼むから近づくのを……。


「でも兎の時は違くなかった?」

「あの方を真似るのは難しいのです」


 あー近いよー。


「ふーん。ちょっとごめん触らせてね」

「ひぇっ」


 凪はパソコンマウスに手をやると何故か汐栞は仰け反ってしまった。

 その理由はわからない凪は首を傾げながらも動画サイトのトップページに出てきた動画をクリックしてみた。


――ちょっと、アンタタチィッッ!!!


――アヒャヒャヒャヒャッ!


「あーうん。確かにこの引き笑いは無理かもだね」

「はい。でも凪くんトップにでてくるって……」

「え、あ? うん。汐栞を書く時に参考にしてたんだ。うん」

「好き。ですか?」

「ん? 多分?」


 凪が汐栞に質問に質問で返すと、


「ん? あば……ギャァァッ!」


 床に吹っ飛んで転んでしまった。

 その転がり美少女に対して、


「好きだと思う。この子明るいキャラだよね」

「凪くんっストップぺこっ。止めてください!」

「? わかった」


 なんだ?

 特にエロ動画ってわけでもないが。

 とりあえず元に戻ったようで良かったのやら。

 騒がしいのやら……。







※※※※※※※※※※※※※※




汐栞ちゃんを応援して下さる皆様へ。


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どうぞよろしくお願いしますです。

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