心苦しいですが試練なのです。

「どしたのなぎちゃん?」

「んー」

「あぁ。もしかしてぇ」

「なんだよ……」

「なんでもないよぉ」


 なぎさが学校から帰宅した早々である。

 夏海なつみが居間でニヤニヤしながら凪に話しかけてきた。

 既に連休も終わり今はテスト前の期間となった。

 勿論だが部活も休みとなっているが。


 (はぁ)


「溜息つくと幸せになれないぞ?」

「うるせぇ。テスト勉強してくる」

「はいはーい」


 しかしどうしたものか。


 凪は自室に入りデスクチェアに体重を預けている。

 あの連休の日から特に普段と変わりない。

 むしろ凪から見てケロッとしている雰囲気だった。

 勿論汐栞しおりのことだ。


 凪は連休の残り時間を使いを完成させた。

 だが未だにクラウド上には更新をかけていない。

 凪は何となく家に来た時にでも見せるか。

 と考えていた。


 それにしてもやはりと言うべきか。

 凪はあの日のことを繰り返し繰り返し思い出している。

 ループさせる。

 ぐるんぐるん。

 とは言ってもテスト勉強もしなきゃ行けないわけで。

 

 (しゃあない図書館にでも行ってみるか)


 凪の家から自転車で五分から十分程度に茅ヶ崎図書館がある。

 ごく稀に顔を覗かせる程度ではあるが、凪の良い時間潰しの施設であろう。


 凪は一通りの勉強道具を携え図書館へと向かった。

 タイル張りの外観はよくある外観だと言える。


 (はぁ)


 夏海の言うようにため息が増えてしまった凪。

 図書館で教科書にノートを広げてもこの有様だ。

 若白髪でも生えてくる勢いだ。

 そこで凪は、


 ◆凪―― 図書館来ないか?


 真司を呼び出すことにした。


 ◆真司―― すまーん六花りっかといる。


 (くそぉ)


 しかしまぁ良く長続きと言うべきかするものだと凪は感想を呟く。

 普通に考えて会ったその日に付き合うとか。

 付き合うとかありえるのか?

 と考え、またループする。

 どこのアニメ世界だよ。と。


 誘ってみるか……


 再びスマホを手に取り、


 ◆凪―― 勉強しない?

 ◆凪―― 図書館にいるんだけど。


 と送信した。


 凪は少し落ち着かなくなり荷物そのままで図書館をあてもなく彷徨い始めた。


 そのままうろうろとする凪。

 そんな凪は溜息一つつきラノベを探し始める。

 凪の部屋の蔵書と言えばかっこいいがほぼラノベ。

 そのラノベは『異世界転移もの』がほぼだ。

 それ以外、いわゆるラブコメ系はかなり少ない。

 というよりも無いに等しい。

 ほとんどが中学の頃友人に借りるかネットで試し読み。

 せいぜいそのくらいだった。

 凪は割と新しいラブコメの本を手に取り席へと戻る。

 

 勉強が手につかない凪は暫くその本をのんびりと読んでいた頃。

 ノート横にあるスマホが震え、


 ◆汐栞―― 私、忙しい


 ん……片言?


 ◆汐栞―― んだからねっ!


 へ?


 と、凪の誘いに対する汐栞からの返信だった。

 凪は「まあ仕方ないか?」と一言呟きスマホを置いた。


 凪はどちらかといえば今、久しぶりのラブコメに集中している。

 先程までのモヤモヤは無くなり、完全に楽しんでいる状態だ。

 勿論勉強のこともすっかり忘れ去っている。

 最近流行りの『甘い展開』らしいラブコメの内容。

 その内容は雨の日に美少女に傘を渡す展開から始まる物語だった。


 ※


「あーっやっと終わったぁ」


 中間テストも終わり凪は疲れのあまりか大きく伸びをしている。


「凪ぁ、帰り遊びに行ってもいいか?」


 真司も同じく疲れた様子だが、呪縛から解き放たれたのだろうか凪に声をかけてきた。

 凪は大きく欠伸あくびしながら、


「生徒会、てか六花は?」

「あー。いや大丈夫だ」

「ふーん、喧嘩でもしたのか?」

「いや、まあ凪が気にすることでもない」

「そ?」


 真司は凪の肩に肘を乗せて「行こーぜー」と。

 どちらにしても凪にしても部活は無い。

 真司に「どこ行くんだ?」と凪。

 に対して「んん、とりあえず近いし凪んち」と真司。

 そう話しながら学校を後にした二人だった。


「なっちゃーん、久しぶりっ!」

「んわっ! 真ちゃんだぁ元気してたぁ?」


 家に着くなり真司は居間にいる夏海と話し始めた。

 それを横目に「お茶でいいか?」と了承も取らないまま真司に注いだお茶を出す凪。


「お、わりぃ。じゃなっちゃん部屋にいるよ」

「真司の部屋じゃねーだろ」

「細かいこと気にすんなっ」


 夏海が「はいはーい」といつもの返事をする中二人で部屋に足を踏み入れた。


「おー? 好みのジャンル変わったんか?」


 そう話しかけてきた真司は凪が購入したラノベを手に取っている。


「あー、たまに読んでみようと思っただけだよ」

「ふーん……面白いか?」


 話しながら真司は凪のデスクチェアに腰かける。

 そのまま読み進めていく雰囲気だ。


「まぁまぁじゃないか?」


 凪も床に腰かけ適当にスマホを触りる。

 少しのあいだ空気のように過ごす二人。

 昔からの付き合いだから特に問題は無いのだろう。


「凪ー、これ面白いかもな。付き合うか付き合わないかってところが良さげた。ふふ」


 本を見ながら鼻笑いをする真司。


「そっか、なあ真司」

「あー?」

「……付き合うってどんな感じだ?」


 凪が突如、自分でも思ってもなかったことを口にした。


「んー? 汐栞の話か?」


 真司は本を読みながら答えた。

 様子は変わらない。


 連休終わりからずっと汐栞の様子が理解出来ない凪。

 しかも入学以来ずっと家に来てた彼女。

 その彼女が一週間程家に来ていないのだ。

 これも勿論汐栞の話だが。

 先日のメッセージ然り。

 学校での様子然り。だ。


「……いや。よく分からん」

「なんだそれ、気になってんだろ? 前にも言ったろ? きっかけなんてそんなもんだ。って何があったかまでは知らんけどな。はは」

「……」


 そうなんだろうなぁたぶん。


「よしっ、俺帰るなー。じゃあな」

「は?」


 暫く沈黙を続けていると、突然真司が凪に手を挙げ部屋を後に、そのまま「なっちゃんまたぁ」と残し帰ってしまった。


「何しに来たんだあいつ……」







※※※※※※※※※※※※※※




汐栞ちゃんを応援して下さる皆様へ。


少しでも『面白い』続きが『見たい』

と思ってくださった方は

☆評価 応援 ブクマ など頂けると本当に嬉しいです。

どうぞよろしくお願いしますです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る