このデートは全力です。

 普段、なきざは茅ヶ崎から藤沢。

 そして江ノ電くらいしか電車に乗る機会が無い。


 電車に揺られながら凪は入学式前の出来事を思い返す。

 あの時、電車で危ない目にあっていたのが――まさか汐栞しおりだったとは。

 隣に座る本人もアニメや漫画に出てきそうなキャラではあるけれど。

 出会いにしてもまたラブコメ的なものだったな。と。


 綿津見わだつみ高校に通う新一年生の四人が横原駅から桜木町へ。

 本人たちからしてみたらいわゆる県外のなのだ。

 というのも『横浜の人』は自分たちのことを神奈川県民とは言わない。

 その――ことを四人も知っているからかもしれない。

 し、他の理由なのかもしれない。


 それはさておき初めて桜木町へと来ている四人。

 前の二人は辺りを見渡しスマホの地図アプリを確認しながら目的地へと歩みを進める。


 ただ、今の凪は非常に緊張をしている。

 手にびしょりと汗をかいている。

 まだ暑いとは言えない季節ではあるが。

 既に汗だくのティーシャツとなっている。


 それはなぜなのか。

 凪から少し前を歩く友人の真司しんじ六花りっか

 二人は付き合っている間柄なのだが。

 二人とも肩を合わせ手を繋ぎお互いの……。

 とにかく顔の距離が何センチあるのだろうか。

 定規も必要が無いほどくっつき幸せそうに。

 そう歩いている光景を凪は目にしているからだ。


 だけれど隣にいる小さな女の子もどうやら同じようす。

 目を丸くし「あわわわっ」と。

 両手の指の隙間からその丸くした目を覗かせてる。

 つまり先に歩く二人を視界に捕らえ紅潮しているようだ。


 凪は濡れてしまった掌をたまに上着で拭い「はぁ」と溜息を繰り返し漏らしている。

 凪の隣を歩く女の子。

 汐栞は時折ちらちらと凪を見ながら無言であとをついてくる。


「あぁー! やっとだねしおりん、凪」


 前を歩いていた六花が真司と手を繋いだまま軽く振り返り言葉を投げかけてきた。


 凪は先程から下向きで歩道を眺め歩いてたからだろう。

 全く気が付かなかったが目的地のコスモワールドへと到着したようだ。


 その事に凪も気がついたころ、真司は、


「少し別行動でもいいよな? 汐栞」

「ふえっ!?」


 真司の問いかけに隣の汐栞は顔面蒼白がんめんそうはく――の表情をあらわにした。


「――」

「真司っダメだよ」


 真司が何か言いかけている口を六花が手で覆いそして強引に塞ぐ。

 真司は「もごもご」と話したがっているが六花がそれを許さないようだ。

 六花は真司の口を抑えながら「またねーっ」と。

 彼女は手を振り真司を引っ張って行ってしまった。


「……」

「……」


 ファミレスの時と同じだ。


「汐栞」

「ひゃ」

「……か、観覧車凄いな」


 汐栞は凪からの言葉に顔をあげ、凪と同じ巨大な円形物を目にしたようだ。


「で、でですね」

「……」


 凪は言葉が台詞が続いて出てこない。


「ひとまず……行こうか……」

「……はい」


 普段のコスモワールドがどれくらいの人が詰めかけているのかわからない。

 が、さすがはゴールデンウィークと言えばよいのだろうか。

 人、人、人でごった返している。

 凪は汗も全く乾かない状態だ。


 そもそも凪が遊園地やショッピングモールといった人が集まる施設に来ることは無い。

 ましてや女の子と二人で歩くなど生まれて初めて。

 いや、登下校で汐栞と歩くことくらいしかないのだ。

 本当に何をしていいのかわからない。

 唯一の救いはいつもの汐栞が相手だということなのだろう。


 (参ったなぁ)


「あの凪くん?」

「ん?」

「少し休んでもいいですか?」

「あっごめん、気が付かなかった」

「……いえ」


 どうやら汐栞は人混みの影響――か。

 それとも元から体調が悪いのか。

 凪が振り返ると少し離れた距離を歩く汐栞は……。

 汐栞は確かに少し血の気が薄く気分が悪そうだった。


 凪が辺りを見渡すと休憩スペースらしき場所を見つけた。

 凪は「あそこでいいか?」と指を指す。

 汐栞に尋ねると汐栞はコクッと頷く仕草を見せ凪のあとをついてきた。


「飲み物買ってくるよ、苦手なものあるか?」

「……炭酸がちょっと」

「わかった」


 凪は汐栞をベンチへ座らせ辺りを探し始める。

 とはいっても凪の頭の中はてんやわんやとでもいうだろうか。

 カッコつけたことなどできる訳もなく。

 見つけた自販機でお茶と紅茶の二種類を手に戻るくらしいしか出来なかった。


 汐栞は「ありがとうございます」と一言。

 お茶を手にしているが口にはせず――俯いている。

 凪からは表情は見えないが、そのまま無言で隣に座ることにしたようだ。


 暫く無言で過ごしていると凪は少し落ち着きを取り戻し汐栞へと顔を向け、


「どんな感じだ?」

「はい大丈夫です。本当に――」

「ごめんなさいなのです。は禁止な」

「……」


 それくらいしか凪には言えなかったが、凪なりに考えた気の使い方なのだ。

 そのまま凪は言葉をかけることが出来ず、このままいるのもどうしたものか。

 と考えている。


 これだけ人多いしな。

 一度でるか。

 入園料もかかった訳じゃないし。


 と、色々と考えをよせていく凪。


「よし。汐栞」

「はい」

「一旦でよー。あいつらとは連絡取れるんだし」

「……でも」

「いいんだよ。調子悪くなるなんて――そう、誰にでも起こるさ、俺も汐栞んちでなっただろ?」

「……」


 汐栞は凪の言葉を俯いて聞いてはいるだろうが。

 だが、汐栞はその場から動こうとはしない。


「うーん」

「ひゃ」


 凪は何気なしにベンチで俯いている汐栞の手を取り立ち上がらせた。

 汐栞は予想だにしていなかったのだろう。

 いつもの「ひゃ」っというのが漏れてしまったようだ。


「また気分悪くなったら言えよ?」

「……」


 そう伝え汐栞の手を引きながら人混みの隙間――を出口へ向かい歩いていくのだった。








※※※※※※※※※※※※※※




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