零からやってみるのです。
「あゎ。早くに起こしてすみませんっ! えとおはようございますなっちゃん」
「おはよお。大丈夫だよぉ起きてたから」
日曜日の春らしいポカポカ陽気の午前。
凪がまだ布団でゴロゴロと『
玄関から聞こえた
夏海は「なぎちゃんなら部屋にいるよぉ」と。
どうやら汐栞を招き入れたようす。
そこからどういう訳か汐栞は……。
すぐに凪の部屋にはやってこなかった。
凪は夏海と遊んででもいるのだろうか。
と凪は特に気にせずの相変わらずの怠惰を貪っている。
「おはようございます。凪くん開けてもいいですか?」
暫くすると凪の六畳の和室の
いわゆる引き戸の奥から汐栞が尋ねてきた。
「どうぞ」
と、少しぶっきらぼうに凪は答え「愛想悪かったかな」と。
凪は少し反省をする。
と同時にすかさず襖が開かれた。
はいいが、
「家にあったので持ってきました。早速描いて欲しいのです」
日曜日の午前に約束もなく突撃訪問を受け目の前に現れたのは。
『
に着替えた汐栞の姿だった。
汐栞の横にいる夏海には「なぎちゃん頭大丈夫?」と言われる始末だった。
どうやら兎に続きメイドも凪の趣味とでも決めつけられたのかもしれない。
「……また有名どころできたもので」
果たしてこの日本で。
ヲタク文化が強いこの日本において。
その――このキャラを知らない若者がいるのだろうか。
「少し恥ずかしいです」
「……」
どういうことなのだろう。
凪は――錯覚、幻覚、幻聴そのどれもに襲われている感覚に囚われたようだ。
あの主人公のどんな行動をも大きな慈愛で包み込む究極メイド。
それは何でも許してしまいそうな妹の方のメイド。
話し方まで声色まで汐栞は似せてきた。
寄せてきた。
ような気に凪はなってしまった。
「凪くん」
「話し方。や、やめてくれ。汐栞。複雑な心境になる」
「はい凪くん!」
凪の知るメイドキャラは何人かいるのだが。
やはりなのか少し気になってしまい、
「また水色の髪を選んだ理由は?」
「単純に水色が好きなのです」
「そう、とりあえず連絡入れてくれれば――」
「ごごめんなさい。昨晩このコスのことを考えていたらいつの間にか――朝にはここにいました」
「……夢遊病、か?」
「凪くんのためならなんでもできます」
「だからその話し方を……」
凪は部屋の本棚に視線を移した。
確かに凪も汐栞のコスプレ元の原作は持っているしアニメも見ていた。
問題は
ようはそのキャラに少しばかり愛着があった事だった。
その為、ただしく
かと言ってあれだけ毎日兎と過ごしてきたのだ。
今ではすっかり兎も動画で……。
は、いいとしても凪はまさしく気が落ち着かないのである。
「凪くんここで座って待ってます。いつでもどうぞ」
ふぅ。落ち着け。
死に戻りなんてしてる時じゃない。
絵を。そう絵を描かなければ。
それにしても一つ一つの芸が細かい。
カチューシャ然り。
ピンクのヘアピン。
同じく細いリボン。
胸元は
律儀に畳に何重の新聞紙を敷いて靴まで履いている。
だけど、そう。
イメージが強すぎてやはりイラストになる。
汐栞を描いている気にならないのだ。
「汐栞」
「はい凪くん」
「……」
「ん?」
凪が気が散るのは仕方ないことだ。
どうしても似すぎているのだ。
首の傾げ方、返事の仕方。
愛情を含んだ声色。
「兎の時もだったんだが」
「はい」
「どうしたものか汐栞を描いていると言うより、そのキャラクターを描いている気になってしまう」
「……」
「要は……キャラトレースとでもいうのか。俺の力量不足だけど、それは汐栞は問題ないのか?」
「凪くんは……私の素の方が好みです、か?」
好みというよりもなんだろうか。
「……」
「……」
上手く言えないな。
「そりゃ確かに可愛いと思うが……」
「あばばばばっ」
汐栞は倒れ込み足をジタバタさせている。
「いつもす、すみません。直球で言われるのに慣れておりません、のです……ふぅ」
「そっか。いや俺こそごめん、汐栞らしく描けるように頑張ってみるよ」
「……」
まぁ。いつかは着られていない汐栞を――描けるようになればいいのかもしれない。
「それよりさ真司と、話してたんだけど」
「は、はい!」
「ゴールデンウィーク、四人で何かしないか? って」
「はい六花からも聞いてます。是非御一緒したいです」
「わかった。何するかはグループで進めようか」
「はい凪くん!」
「……ぅ」
ほんと女の子の感覚なんてちっとも分からないけれど。
コス好きってのは中々理解が難しい。
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どうぞよろしくお願いしますです。
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