私は専属モデルです。
「ところで
凪の隣で不貞腐れてた
「ん?」
「モデルって凪くんちでやってた事と同じでいいのですか?」
「?
あの人何も説明してないのか。
「凪くんがここで描いてた絵と同じでいいよって言ってました」
ここで同じもの。
ということは保奈美は兎の水彩画をさしているのだろうか。
とは言ってもあれはただの練習用なのだが。
そこで凪は、
「うーん。部活って何かしら結果とか出すためにあるんじゃないのかな?」
と、疑問を汐栞にぶつけてみた。
「というと凪くんの場合はコンテストのようなものでしょうか、あとは個展とか……」
「個展はさすがに。部費なんて無さそうだし」
「なるほどですね」
汐栞は珍しく『腕を組み』天井を見上げた。
どうやら汐栞なりに考えているようだが。
凪は個展という単語を思い返し美術室を見渡してみた。
テレビや漫画などのよくある美術室とは違い、やはり新しい学校なだけあって、天井にはガラスが数枚貼られ、壁全体は白壁や木目調の壁を使った箇所が面毎に変えられ、植物なども飾られてある。凪の印象は美術室というよりもイメージ上の工房が近かった。
(個展……、ここって使えるんだろうか)
暫く考えを寄せていた事に凪は気が付き隣の汐栞へ振り向いた。
と凪の思い切り近くいや目の前に汐栞の顔があった。
「どぉわぁ!」
「ひゃぁぁっ!」
「汐栞」
「はい……」
「毎回近いのは――わざとなのか?」
「……はい」
「え?」
「え?」
「……」
「あっ、いえいえまさか。たまたまです偶然の必然ですっ」
「必然ならわざとじゃないか?」
どうにも最近怪しげな動きを見せる汐栞。
『怪しげ』言葉としては使い所に困る単語ではあるが。
凪は最近ようやっと汐栞の特性のようなものを掴みかけてきていた。
そんな彼女は「まさか」と手を降って否定してはいるが汐栞は話を逸らし、
「凪くん先程ずっと考えていましたけど」
「……個展ってここでもできるのかなって」
「凪くんの絵画ならどこでだって出来ますよ」
「どうも嘘くさいんだよな」
「何を言ってるのですか。凪くんの絵は素晴らしいです」
「兎の絵しか知らないのにか?」
「え? あー確かに。うんうんそう――ですね」
やはりというべきか。
この間は明らかにおかしいのだ。
汐栞俺の勝ちだ。
なんて凪がふざけた事を考える余裕が出来たのは汐栞のおかげだろう。
先日、真面目な顔で接してくれた汐栞のおかげた。
凪はそう考えている。
そう頭の中で遊んでいる凪。
凪の眼前では「うーん」と汐栞。
首を傾げたり腕組みしながら思案したり、と思えば眉尻を下げてみたり。
と、凪の中の汐栞は最近本当に見てて飽きのこない女の子。
そんな印象に変わってきたのだった。
それよりも。
と思い出した凪が、
「汐栞、部活始めようか……」
「あっはい! 座ってれば良いですか?」
美術室風工房の中央に椅子をずらし広めのスペースを作っていく汐栞。
皆がよく知るであろう美術室とは違うが。
必要な時に必要な分だけテーブルや椅子を用意する。
そういう形式を取っている作りのためかなりの広さを感じられる部屋となっている。
今日の汐栞は兎コスは準備していなかったようだ。
普段の衣替え前の制服のまま凪へ身体を向けている。
「ありがとう汐栞」
凪も汐栞が準備している間に水彩セットを用意し終えた。
何も色の無い真っ白に凪の筆が色を重ねていく。
栗色の長い艶のある髪。
今日の汐栞はふんわりとした髪型。
全体的なメイクはうっすらと。
口にはさりげない色合いのリップ。
制服だから紺色のブレザーにチェックのリボン。
スカートもチェック柄。
学校指定の白の上履き。
体格は小さく華奢と誰でもがわかる全体的な骨格。
顔は。
誰が見ても整ったと言える大きな瞳。
無駄な肉のない顎周りにすっとした鼻筋。
だけれど体格のせいか幼さも残す風体。
いつものように無言で進めていると汐栞が、
「凪くん油も出来るんでしたっけ?」
「んー、においきついしあまり――おすすめはしないぞ? 何よりめちゃくちゃ時間かかる」
「そうですか」
「前聞かれた時は、一応出来るとは言ったけど。だいぶ前に一度やって――夏海にめちゃくちゃ叱られたよ。それに……」
「はい」
「それに画家になりたいって訳でもないし。今はデジタルが一番楽だろうな――色んな意味で」
「そうなのですね」
「凪くん」
「んー?」
「色んな私を描いて欲しいって言うのはわがままでしょうか……。例えば凪くんが好きな風景の中に立ってる私とか――座ったりとか。コスだけじゃなくて……」
「……」
「……」
汐栞の問に答えられず筆を進める凪。
再び暫くの時間を無言で筆を進めていたが、
「あ! やばっ」
「ど、どうしましたかっ!」
「時計見てなかったっ、夏海の晩飯っ!」
「ふあっ! それは大変ですっ急ぎましょう凪くん」
集中しすぎてすっかりと忘れてた。
急ぎ片付けていく二人。
ほぼ完成しかけの汐栞は明日にでも。
と凪は考え美術室の端に寄せて置くことにした。
二人は大急ぎで家へと走り出す。
ん、二人で?
「細かい事気にしたら凪くんの負けですよ?」
と、走りながら茶目っけたっぷりに話す汐栞だった。
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