嬉しさ半分と悲しさ半分です。
◆凪―― このURLから見れるようにしました。
個別で
グループの未読はとんでもない数になってはいたが。
どれもこれもくだらない内容だった。
凪は返事はせず既読だけ付けた形にした。
読みかけのラノベを読んでいると凪のスマホが揺れ、
◆汐栞―― ありがとうございます!
◆汐栞―― 本当にありがとうございます!
◆汐栞―― 感動しすぎてぴえんです。
◆汐栞―― お上手すぎて転げてます。
(この子……ぴえんですって使う子なんだ。しかも転げてますって)
◆凪―― いえ。納得いってませんよ。
◆凪―― やり直したいくらいです。
◆凪―― 最後、急ぎすぎたかも。
◆汐栞―― そうでしたか。
凪がスマホを眺めていると居間から、
「なぎちゃーん、いってきまーす! ごめん冷蔵庫空になってるう」
「はいよー買っとくー頑張って」
「ありがとううう」
と、いつもの夏海の声に凪は部屋から返事をした。
(買い物忘れてたか……めんどいけど)
仕方ないか。
と、凪は数日分の食材を買いに行ってなかったことを夏海に言われ思い出した。
凪は「んー」と伸びをし身支度を整え終えた時、
◆汐栞―― あとででもお話出来ますか?
またしても個別で汐栞からのメッセージ。
に対して凪は、
◆凪―― 今から食材買いに行きます。
◆凪―― 帰ったら電話しますね。
そう汐栞へと返信をした凪。
カゴ付き自転車。
シティサイクルともママチャリとも呼ばれるバイシクル。
その自転車に跨り茅ヶ崎駅方面へと漕ぎ出した。
到着した頃にはすっかりと日も暮れていた。
そのいつもの店へと到着した凪は何の食材を買うか考えていた。
自転車スタンドを立てたタイミングで、
「凪くんっ!」
「だぁぁ!」
あまりの大声でびっくり仰天の凪が振り向くと汐栞の姿が、
「わわわ、ごめんなさい」
「い、え……いつも突然ですね」
「べ、べ、別にストーカーしてるつもりはないのですっっっ!」
ここに汐栞がいる時点で『普通』からはだいぶかけ離れてはいるのだが。
そんな事を考えつつも、目の前の汐栞と言えば。
いつものように両手で顔を隠しながらしゃがみこんでしまっていた。
「えーと、汐栞さんはどうしてまたこんなところに?」
「はいっ! 私もここに用事が」
しゃがみこんでいた汐栞はびっと立ち上がり返事をした。
その姿を見ながら凪は軽く引き攣らせつつ、
「そうですか……じゃあまた」
「……」
その場を後にした。
凪はそのまま歩みを進め入口辺りで気がついた。
丁度スーパーのカゴを手にしたところだった。
あ。話すとか何とか。
言ってたっけ。
完全に無自覚ですっかりと汐栞との話の約束を忘れていた。
(やばっ)
と凪が呟き入口へと振り向く――と。
必死に涙を堪え、頬を膨らませ、口を必死に閉じている汐栞がいたのだ。
そう――すぐ真後ろに立っていた。
「ごめんなさい。忘れてました」
「……」
汐栞は「うーっ」と声を我慢し「こくっ」と頷いて見せた。
が、未だに涙を塞き止め溜めているようす。
汐栞は必死に流れないようにしているのだろうか。
少し上を見上げ凪の上着袖を摘んできた。
とは言っても身長差がある。
その為、凪が下から見つめられている状態が続いている。
「とりあえず汐栞さん。通告の妨げになりますので」
「……」
凪がそう言うと汐栞も察したのか通路の端へと歩き出す。
が、凪の上着を離すつもりは無いようだ。
いくらリア充的な経験が無い凪であっても今の状況がよろしくない。
非常によろしくないことだとはわかっている。
掴まれた上着の手を振り払うなんてできるわけがない。
一先ずその姿勢のままタイムセール品を中心に数日分の食材をカゴに詰めていく凪。
基本的に食材の管理は凪が行っている。
その為ここでお金を余らせることが凪の任務だ。
つまりは上乗せ分のお小遣い稼ぎになるのだ。
食材選びは雑に見えるが余念はないのである。
一通りの肉や野菜に調味料を入れ終えたところで凪がふと気がつく。
「汐栞さんは何も買わないんですか?」
「ひゃい! は、はい! 大丈夫、です」
凪が突然声をかけてしまったが為に汐栞をいつものように驚かせてしまったようだ。
(それもそうか……)
よくよく考えてみれば汐栞が食材を買うこと。
それじたいがおかしな現象なのだろう。
と、凪は考えた。
とは言っても料理は上手だ。
ある意味でも羨ましいものだ。
とも。
目当ての買い物を全て終わらせた凪。
凪はマイバッグにぎゅうぎゅうに詰めめいっぱいだ。
荷物を自転車のカゴへと載せた頃。
ずっと無言で後ろを着いてきていた汐栞が言葉を口にした。
「あの凪くん」
「あ、お待たせしてしまいましたよね。ごめんなさい」
少し落ち着きを取り戻したようだ。
凪が振り向くと学校にいる時の雰囲気に戻っていた。
「先程もお伝えしましたが、お話させてもらっても良いですか?」
「大丈夫ですよ。どこか公園――」
「いえ凪くんのおうちでお願いします」
そこにはいつも慌てたようすの汐栞はいなかった。
先程よりもさらに真面目な顔つきの、真っ直ぐと姿勢を正した――ほんとの意味での美女が立っていた。
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