泣きたいのです。
「ただいま
「ん? おかえりなぎちゃん。って汐栞ちゃんはあ?」
「さっき
「――うぇぇっ!? なぎちゃんあの家に行ってたの?」
「ん? そうだけど知ってるのか?」
「知ってるも何も……」
(そんなに有名な家なのか……)
「まぁアホみたいにでかい家だったな。目眩起こして帰ってきたんだけど……ははは」
「……そっかー」
「そーだよ。飯は?」
「……汐栞ちゃん来ないってことだよね?」
「と思うが? いらないのか?」
「うーん、今日はいいやあ、でもありがとね」
「おう。なら部屋にいるからな」
「……」
(さてと、仕上げるか)
と凪は呟き、部屋で『
最後の仕上げの為気合いを入れる凪。
やはり満足がいかない凪は「やっぱあのイラスト風になっちまう」と。
汐栞のコスプレ元に寄ってしまう事にイラつきを感じてしまう。
とは言っても引き受けてしまった以上完成はさせたい。
と凪は思っている。
そんな汐栞とは似ていない兎コスの人物画。
というよりイラストは真夜中頃に一応の完成となった。
「うぅ〜」
疲れきった凪がパソコン画面をながめていると夏海が帰ってきたようだ。
凪が玄関へ歩いていき目の前の夏海はフラフラだ。
「お疲れさん」
「あるぇ? なぎちゃんだぁぁ」
「くさっ!」
「うぅ〜」
「はいはい。ほれ掴まれー」
「わ〜い。なぎちゃん愛してるぅ」
「わかったわかった……にしても夏海臭いわぁ」
仕事終わりの夏海は毎度アルコールのにおいが凄まじい。
だけど凪は知っている。
夏海が毎日のこの仕事で支えてくれている事を。
自分を生活させてくれている事を凪は知っている。
学校に通わせてくれていることを知っている。
つまりは凪からしてみれば軽いコミュニケーションの。
その一つの悪口でもあったりするのだ。
夏海は狭い自室にベッドを置いている。
夏海によれば「こっちのが疲れとれるもん」だそうだ。
そのベッドに夏海を運んだ凪は寝室の
するとその部屋から、
「ぅぅ、汐栞ちゃんに……」
と、酔っ払っている夏海の声が聞こえた。
が、そこで止まってしまった。
(って飯食ってなかった――いや俺もさっさと寝ないと……)
もうすぐ朝なのだ。
凪は少しでも仮眠をと急ぎ風呂に入り寝る準備を進めた。
暫くしてから横になったのは朝の五時を回ってからであった。
※
「あー」
目が覚めたのは昼の一時を過ぎていた。
凪が「やっちゃった……」と独り言を呟いた。
スマホの画面には沢山の通知が表示されていた。
◆真司―― おーいなぎさー
◆真司―― 生きてるかあ
◆六花―― なーぎーさー
と、グループ内に副会長の二人が似たりよったりの内容を発信していた。
その画面を眺めながら凪は、
◆凪―― ごめん。寝てた。
昼休みが終わってる時間のはずだろうか。
凪は返事は待たずに居間へと向かった。
凪が向かうと夏海は既に起きていたようでテレビの音が聞こえた、
「おはよう、なぎちゃーん」
「……お、おう」
「盛大な寝坊助だねえ。ぷぷぷ」
と、相変わらず寝転がりながらのんびりしている母親の夏海。
「あー、うん」
凪は気まずくて会話が続かない。
「アハハ、たまにはいいと思うよお、なっちゃんなんて毎日だったしね」
「そーかい」
「そーだよお」
「絵を、仕上げてたんだ……」
(言い訳だな……)
「言い訳ねぇまぁ……うん。で、見せてよ」
「はぁ?」
「
「う、うそ?」
「なぎちゃんの欠席理由だよぉ」
「それはどうも……」
「ほい。部屋行こっ!」
夏海はヒョイと飛び起き凪の肩を押しながら二人で部屋へと入っていく。
凪は仕方なくも従うしかなくパソコンを起動させ汐栞の絵を見せた。
「……」
「な、なんか言えよ……」
「……上手いじゃーん」
と、それだけ述べて凪の部屋をでていった。
(それだけかよ……)
勿論保奈美に対して嘘をつかせてしまったわけだ。
凪が夏海に文句を言える訳もない。
何となく気まずくなってしまった凪。
部屋にあるスケッチブックと何本かの鉛筆などを鞄にしまい込んだ。
凪は荷物片手に海沿いへと向かうことにした。
「夏海ー、いつものとこ行ってくるよ」
「はいはーい」
※
あー久しぶりかも。
やっぱ落ち着くな。
四月の砂浜は少し風が吹くとまだ――寒さを感じた。
凪のお気に入り。
と言ってもただの砂浜ではあるが。
まばらではあるけれど散歩している人。
ジョギングしている人がいたり。
凪は波の音も合わさるこの風景がお気に入りなのだ。
んー、絵の具も持ってくれば良かった。
のんびりとスケッチブックに目に入る情景を描いていく。
が、凪としては鉛筆ではやはり味気ないと感じている。
灰色もそれはそれでありなのだけれど。
もはやこれは得意不得意とか好き嫌いの話なのかもしれない。
言ってしまえば凪は見た色を描くのが好きなのだ。
と、いつも自分に語りかけている凪だ。
この日の午後はズル休みをしたことも忘れ、久しぶりの場所でめいっぱい楽しんだ凪であった。
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