お近づきになりたいです。

「唐突なのですが。私を描いてもらう事はできませんか?」


 先日ファミレスで二人はその後暫く沈黙の時を過ごした。

 のだが突然何を言い出すかと思えば汐栞しおりは、凪に自分を描いて欲しいと頼んできた。


 なぎさは今「どうしたものか」と、思いにふけっている。


「それで、来週――生徒会執行部の選挙。そして、部活動を順次整えていくことになる。希望用紙に記入し今週中に提出するように――」


 そんな中、担任の貝原 保奈美かいばら ほなみ

 いや、全クラスの担任の先生達が朝のHRで生徒に通達を出してきたらしい。

 凪は先の汐栞の事で悩んでいる状況だ。


 真司に聞いたところによると、主だった部活動は予め決められいるとの事。

 どうやら丸で囲んで提出する仕組みのようだ。

 それ以外に新設の希望があれば内容により作っていく考えらしい。


「真司はどうするんだ?」


 割と今年一年は授業速度のノルマが厳しいらしい。

 入学式の翌日からは詰め込みで授業が行われている。

 今は頭を休める昼休みで凪と真司は食事中だ。


「六花と学園を改革していこーかって話してるよ。アハハ」

「改革も何も、まだ始まってもいないようなものだろ?」

「それは言葉のなんちゃらってやつだろ」

「言葉のあやのことか?」

「あーそんなかんじー? 凪は?」

「本当は何もするつもりなかったんだけどな……」

「へー、俺たちと改革してみるか?」


 しかし中学の頃よりお花畑になってるんじゃ。

 あの頃のクラスメイトにも聞いてみたいところだ。

 そんなことを凪が考えてしまうのは真司が古くからの旧友だからなのか。


 凪は真司の改革仲間の誘いを無視し、


「そういえば真司はあのあとどうしてたんだ?」


 真司は六花と消えてから連絡すらしてこなかった。

 凪としてみればやはり聞いてみたい。

 と、いうのも旧友心というやつなのかもしれない。


「いや、普通に公園で少し話してから帰ったさ。まぁ少しずつだよ」


 何のポーズかは知らないが……。

 真司は親指を立ててウィンクしたいようだ。

 出来てないのはご愛嬌なのだろう。


「そっか、まぁ勢いで付き合ったんだ。勢いで別れないように精々気を付けろよ」

「それよりも凪はどうなんだよ。汐栞、今朝から他のクラスの生徒からも押しかけられてるぞ?」

「なんで俺がどうって話になるんだよ」

「凪だってあのあとのこと俺に言ってこないじゃん」


 怪しいとでも言いたげな様子の真司。

 そんなイヤらしい笑みを浮かべる真司に凪は一言、


「それなー」

「なんだよ、何かあったのか?」

「うーん。自分をモデルに描いてくれないかって頼まれた」

「なんだよそんなことか――描けばいいじゃん」


 (人物画かぁ……)


 凪は真司の話には答えず呟いた。

 そのまま窓際にいる汐栞と六花が食事をしている姿を視界の端で見てみる。

 確かに真司の言うモテモテのようだ。

 二人の食事などお構い無しに男子生徒が群がっているようすだ。


「常識を疑うなあいつら――」

「ははっ六花は俺が守るっ! ってそろそろかトイレ行ってくるわ」


 凪も時計を確認する。

 と昼休みもあと十分ほどで終わりを告げようとしていた。


 ※


「今日は六花と帰る、ごめんなっ」


 真司は三組へ行くのだろう。

 その日の授業が終わりを告げると直ぐに教室を飛び出していった。


 (仕方ないか)


 入学式早々に彼女が欲しいと宣言していた真司だ。

 凪は、暫く独りで過ごすことへの諦めなのか。

 はたまた無茶苦茶ではあるが友人への祝いとで複雑な心境だ。


「凪くんごめんなさい。えと……助けてもらえませんか?」


 凪も帰ろうと荷物をまとめていると声をかけられた。

 見上げるとそこには汐栞が困ったような表情で俯いていた。


「なにかあった?」

「……その、声をかけられるので」

「あぁ……、なるほど――わかったよ」


 それを聞いた凪は教室の出口へと振り返る。

 そこには汐栞を見ている男子生徒が数人いた。

 汐栞の言いたいことに気が付き「とことん常識がないな」

 と、凪はそいつらに聞こえるように声に出した。


 (もしかしたら普段は六花が守り手だったのか?)


 何となく凪は汐栞と六花の関係が分かったような気がしていた。

 ただの想像ではあるが。

 もしかしたら幼少の頃からなのか――中学の頃からなのか。

 分からないけれどきっとそうなのだろう。

 と、理由も全くないが確信めいたように凪は頷いていた。


 凪は生まれて初めて女の子と下校している。


「かなり近いみたいだ、汐栞んちは学区の端っこなのかな」

「です。私も驚き……です」


 汐栞の家の方角は凪の隣の小中学校の区域だった。

 つまりはお互いにわりかし近所だった。


「……」

「……」


 (うんっ全く慣れない)


「ところで……、絵の事だけど」

「あ、はいっ」


 ファミレスでの件に凪は触れてみた。

 すると隣で歩く汐栞は急に凪へと見上げ瞳をキラキラさせた。

 凪は「つまり……はそーゆー事だよね」と呟き、


「本当に下手でも良いなら――あと途中でイヤになるかも?」

「かも……ですか?」

「昔にちょっと描けなくなったと言うか、いやになったというか……」

「も、もしかして私とんでもないことをっ」


 キラキラしてたと思ったら、今度は凪の袖を軽く摘み悲しそうな表情を見せる汐栞。

 百面相ひゃくめんそうのような忙しさだ。と凪は内心思う。


「いやいいんだよ。昔のことだし今は平気かもだし」

「そう……ですか……」

「うーん……じゃあ、土日はあいてる?」

「どっ、どちらも平気ですっ」

「何で描いてもらいたいの? 水彩とか……」

「そうですねー。パソコンて出来ますか?」

「あ、うん。古いけど色々……」

「でしたら――それからお願いします!」


 から?


「わ、かった。なら家じゃないと……」

「凪くんち――なら全然問題ないです」





※※※※※※※※※※※※※※




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