六花が羨ましいです。

 学校から帰ろうとしていた凪と真司は月ヶ瀬 汐栞つきがせ しおりの誘いで駅前のファミレスへ来ている。

 男女四人は入学式の話や感謝状について話をしていた。


 他愛もない話を四人がしていると山梨 六花やまなし りっかが、


「てゆかさ、二人ともうちのこと六花りっかって呼んでー。うちもなぎさ真司しんじって呼ぶから」


 山梨 六花やまなし りっかは、なんというのか『ノリが軽い』。

 というか明るいというのが凪の印象だ。


 おそらくこの子も整った姿形なのだが。

 見た目からしてギャルっぽい金髪でアクセサリーも色々と身につけている。

 凪はどうして月ヶ瀬 汐栞と。

 と、凪は思わざるを得ない。

 それ程に見た目も雰囲気もタイプが別なのだ。


「おっけー六花! 凪も平気だろ?」


 真司は凪の隣で「別に良くね?」とでも言いたげなようすで肩を竦める。

 その真司を横目に凪は、


「……うん」


 一言。頷く。


「じゃあうちだけってのもなんだし、しおりんのことも汐栞で――男子二人へも呼び捨てで良いよね?」

「え……あ、うん」


 なんだしってなんだし。

 本人困ってる気がするけど。


「せ、せめて――くんは付けさせてほしい――です……」


 俯きながら弱々しく答える月ヶ瀬 汐栞。


 こうして近くで見ると確かにその姿形が整っていることに凪は驚愕してしまう。

 が、彼女の見た目からは想像出来ないが――いざ話してみるとおとなしい。

 なんというのかギャップが凄い。


 そう凪が考え込んでいると六花が声を出した。


「それで、しおりん話したいんじゃなかったの?」

「う、うん。ごめんね。えっと改めてありがとうございました。あの時は――お母さんからはお礼を伝えたのですけれど、私から何も言えずいましたので」


 汐栞があの日のことを振り返りぺこりと。

 今日その何度目かのお礼を耳にした真司が、


「いいって汐栞ちゃん、あん時があったからこの運命の再開があったんだし? 俺たちが感謝する方だ、なぁ凪?」

「うんうん。なにも気にしなくていいよ。ほんとに」

「そうそう、ちょっとしたヒーローごっこみたいなもんさ。アハハ」


 そう言いながら真司は「笑え」と凪に耳打ちしている。

 真司は「早く」と凪の脇腹をコツコツと二度つついた。


「そ、そうだね。アハハ」

「何それウケる」


 (何もうけないぞ、六花)


「なんだか空気悪くしてしまったようです。すみません」

「しおりんが謝る必要ないじゃん。ね?」

「そうそうないじゃーん。ね?」

「どうして俺を見るんだ……ね?」


 三人揃って首を傾げる異常事態に、


「……ふふっ……ふふっ」


 と、両手で口を隠す月ヶ瀬 汐栞。

 どうやらこのポーズが笑いをこらえる時の癖なのかもしれない。


「ところで、六花も汐栞(でいいよね)二人ともヤバいくらい――めちゃめちゃ美人だけど、彼氏いるの?」

「おいっ、真司!」


 凪はあまりにも気が早すぎる真司に即座にとめにはいる。


「うちら二人ともいないよー」

「おぉ、マジか!」

「マジマジっ!」

「なら俺立候補してもいい?」

「えぇ、どっちに?」


 まさしく、ただしく、真司と六花の独壇場である。

 二人して身を乗り出しながら話を進める。


「そうだなぁ、どっちもと言いたいとこだけど――六花ヨロシクっ! ノリ合いそうだし!」


 この男は握手を求め六花へ手を差し出している。

 とことんアホなのかと凪は深い溜息をついた。


「ええどーしよー。でも折角だし試しに付き合ってみようかなー」

「「はやっ! 軽っ!」」


 なんということだ。

 もう一人アホがいた。


 その驚きの光景に思わず凪は声を出したが月ヶ瀬 汐栞もハモってみせた。


 未だに六花は真司の手を握り返し瞳をキラキラさせているが汐栞へと顔を向け、


「なんだ、しおりんも凪も息ピッタリじゃん、二人も付き合っちゃえば?」

「何言ってるの?」

「だって、そのつもりだったんじゃないの?」

「六花っ怒るよ! 凪くんも怒ってください!」


 一瞬だけ汐栞のこめかみがピクっと。

 どうやら本当に怒っているのかもしれない。


「俺は平気だけど、月ヶ瀬さん――きっと冗談だよ、落ち着こ」

「……ご、めんなさい。えーと汐栞でいいです」


 汐栞は大声を出したことに対してなのか他の理由があるのか小声になった。

 凪がその言葉を聞いていると次第に身体を縮こめて見せた。


 真司に注意した方がいいのではないだろうかと思った凪は、


「真司。いくらなんでも無茶苦茶すぎると思うぞ」

「そうか? きっかけなんてそんなもんじゃないか?」


 久しぶりに凪と真司は意見が噛み合わない。


「……」

「……」

「……」


「うーん、しおりんも凪もごめんっ! なんかうちらが空気悪くしたかも? だから――また明日話そっ!」


 と、言いながら六花は立ち上がる。

 彼女は真司の手とファミレスの伝票を手にする。

 六花は真司を立たせると「ごめんっ」と。

 そのまま二人出ていってしまった。


 (台風のような生き物だった)


 そう凪がボヤいていると汐栞が一言、


「凪くん……」

「は、はい」

「……こんなことに、ごめんなさい」


 凪の向かえに座る汐栞がテーブルにおでこをつけている。

 その姿を目にし凪は、


「いや、今のは真司が悪いよ」

「……」

「……」


 これは気まずい。

 空気を変えたい。


「汐栞さんは、何かご趣味はっ?」

「……えっ?」


 凪は噂でしか知らないコンパみたいな聞き方になってしまった。

 が、やっとのことで汐栞が頭をあげてみせた。

 その顔にある瞳は普段よりさら大きくまん丸と見開いていた。


「……自己紹介の時に特に何も言ってなかったから」

「……」

「……」


 くぅ。


 凪は話題をどうにか作ろうとしている。

 その姿を見ていた汐栞はどこか気まずそうに、


「……ええと、笑わないで――くださいね?」

「もちろんっ」


 やっとの沈黙を打ち破ってくれた汐栞。

 その彼女に凪は心中感謝するが、


「私――その、ヲタクなん、です」

「あ、ああ! ヲタク! うんうんヲタクっ」

「連呼しないでほしい……です」


 凪の目の前で両手で顔を隠す汐栞。

 その小さな顔から少し覗かせる隙間の頬は真っ赤だ。


 凪はその真っ赤な汐栞を目にし気の効いた台詞など持ち合わせず、


「あ、ごめんなさい。えーと、例えばどんな?」


 顔を隠しながら汐栞は恥ずかしそうに俯く。

 手で隠しているせいか凪にはモゴモゴ聞こえる。

 凪が「え?」と聞き返すと「特にコスが最近」

 と、汐栞が顔から手を離し言い、続けて、


「というよりも割となんでも……です」

「な、なんでも」


 凪は若干顔を引き攣らせた。


「はい。ひいちゃいました……よね」

「いやいやまさか――俺もラノベ読むよ……」

「……」

「……」


 凪は後悔していた。

 質問する内容が間違っていたと。




※※※※※※※※※※※※※※




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