痴漢撃退男です。

「明日からが本番だ、全員真面目に勤しめよ。あー、それと、矢代やしろと森野――校長室にこの後来なさい。痴漢だかを撃退した君達に感謝状が渡されるそうだ」


――なになに?


――痴漢倒したの?


――すげーっ


「ふあっ?」


 なぎさは突然の担任からの呼び出しで素っ頓狂すっとんきょんな声をだしてしまった。

 真司しんじも最初こそ似たようなものではあったけれど、直ぐに持ち前のポジティブシンキングで「ウェェェェィィ」などピースサインを振りまいている。


「あっ」


 再度、凪は声をあげてしまった。

 凪は口を両手で抑える間抜けな仕草になっているがあの時を思い出したのだ。

 凪が思い出したと同時に窓際に座る月ヶ瀬 汐栞つきがせ しおりへ振り返る。

 すると、彼女も凪へ目を合わせ、周りには分からないように軽く会釈をした。


 あーそうだった。


 先程まで疑問というのかはてさてどこかであったかな――と。

 考えていた凪はやっとスッキリしたようす。

 そのまま凪は彼女へ僅かな微笑みで返した。


 すると、声は聞こえなかったし周りも気がついた様子はないが、




――あ、り、が、と、う




 と、彼女も凪がわかりやすいように口を動かし返してきた。

 とは言っても凪がそう感じたという勘違いの可能性は否定できないのだけれど。


 とにもかくにも、その勘違いかもしれないやり取りで――凪は少しだけ照れくさくなり若干顔を熱くさせて俯くのであった。


 ※


「なーんか有名人になった気分だ」


 真司はご機嫌な笑みを浮かべ――独り言のように話し始めた。


 感謝状を渡された凪と真司は他の生徒よりも帰りが遅くなってしまった。

 一学年しかいない校舎はすっかり静けさに包まれている。


 その静かな廊下で凪は真司の独り言の内容には答えず、


「真司。月ヶ瀬つきがせさん電車での被害者だと思う。思い出したんだ――さっき」


 凪は隣で歩く真司を見ずに先程の考えを伝えた。


「えっ? マジで? あんなに可愛かったっけ」

「んー。はっきりあの時の事は思い出せないけど。雰囲気が変わったのか――」

「マジかっ! これ運命じゃん告るしかなくねっ?」

「そーゆーと思った」


 入学前の休み期間中からの――突然の再会。

 それを聞いた真司は「行くしかなくねっ」とはしゃいでいる。

 だけど凪は女の子と関わりあった経験が少ない。

 真司のような思考には至らないのだ。


 凪と真司が歩きながら話ていると後ろから、


「矢代、森野、偉かったな。初日から私は誇らしい気分だよ」


 凪が振り返ると、担任の貝原かいばらが「うんうん」と腕を組み頷いていた。

 それに対し真司が身体を大の字にし、


「でしょー。俺はこの学校の英雄王になるっ! ガハハ」

「ワンピースの真似?」


 真司は海賊王とでも言いたい様子。


「ところでその英雄王。と夏海なつみの息子の凪。お前達新しく部活作ったり生徒会運営やってみたくはないか?」


 (え……)


「なんと! 英雄王森野は――さらなる高みへと登れということですねって、先生なっちゃんの友達か何かなんですか?」


 未だに身体を大の字にしている真司がたずねると、


「まぁ、そんなところだ。だが今はそれはいい。とにかく今回の件もあるし、仮に生徒会なら票も集めやすいだろう、無理にとは言わんがどうだ?」


 歩み寄ってくる彼女に、凪はなんて強引な手口だ。

 と凪は内心ボヤきながら――断る理由を考えている。

 真司もノリで英雄王などと言ってはいたけれど「うーん」と。

 同じく真司も悩んでいる様子だ。


「と、とりあえず考えさせてください」


 凪が少しどもりながら答えると、


「わかった。どちらにしても――部活は作り始めなきゃいけないから忙しくなるぞ! ははは」


 貝原は、一年目の学校なんて手探り状態と変わらんから気負わずやってくれ。

 などと言いながら貝原は豪快に笑っている。

 けれど凪としてはそこまでの大役をできる気がしない。


 (部活ならまだしも生徒会はね……)


 こう呟いてしまうのも仕方のないことだ。

 と、俯きながら凪は考えている。


「じゃあ先生、また明日ー」

「ああ、遅刻するんじゃないぞ。あと夏海に飲みすぎるなと言っといてくれ」

「はい、失礼します」


 凪は軽く会釈をし、真司は手をブンブンと振り回し別れの挨拶を済ませた。


 正面玄関へ向かいながら「どーするー?」と真司。

 真司に聞かれ凪は「絶対無理っ」と答える。

 そんな先程の話の相談をしながら二人は歩む。


 そんな話をしながら二人が正面玄関に到着すると、


「あ、あの……」


 どういう訳か下駄箱前にいる月ヶ瀬 汐栞が声をかけてきた。


「おぉ! 汐栞しおりちゃん」


 直ぐに真司が両手をあげ大袈裟に反応を示した。


「あの時はありがとうございました」

「しおりん、この人達が?」


 再び月ヶ瀬 汐栞が丁寧に頭を下げている。

 すると玄関の外から別の女子生徒の姿。

 その子が声を上げながら凪たちの元へ歩いてきたのだ。


「うん、そう」


 月ヶ瀬 汐栞が振り向きざまに軽く答えると、先程の女子生徒が、


「ふーん。あ、わたし六花りっか――山梨 六花やまなし りっか。えっと三組。しおりんの友達だよ、宜しくねっ!」


 何となく凪はこの女子生徒を真司と似ているかも。

 と、凪は感じてしまい――それにつられた真司も、


「うぃーすっ! 森野 真司でぇす!」

「えーと、矢代 凪です」


 (あー、どっちもチャラそうなのか……)


 と、凪は口に出してしまった。


「凪、チャラいってひどいよお。まだ純潔だよ」

「そうだぞ? 俺も同じだっ」


 声を合わせて否定するチャラコンビ。

 にしてもいきなり呼び捨てとはなかなか。


「似た者同士で何よりで……」


 凪は呆れながらも素直に返事をした。


「ふふっ」


 その光景を見ていた月ヶ瀬 汐栞が両手で口を隠すように微笑した。


 その後少しの間が空いたが月ヶ瀬 汐栞は「コホンっ」と。

 どうやら落ち着きを取り戻そうとしたのか軽く咳払いをしたようだ。

 彼女は「良ければこの後少しお話させて貰えませんか?」と。

 どうやら学校を出てどこかで別で話さないか? とのことだった。




※※※※※※※※※※※※※※




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