兎はヒロインになりたいです。
約束の日曜日。
先日凪は家までの道のりを
彼女は本当に約束通りの昼の一時ジャストに凪の家にやってきた。
休日の汐栞は、大きめの肩掛けバッグにデニムジャケット。
白のロングスカートに白っぽいスニーカーで纏めていた。
いわゆる高校生らしいとでもいうのか。
凪からの印象はゆるーい感じの格好だった。
「なぎちゃんが女を連れてきたぁぁぁ……ぅぅ」
玄関にいる汐栞の声を聞いたのか
「あ、あの。初めまして……
夏海の人柄は事前に伝えていた凪。
汐栞はそれでも恐れたのかどもりながら返事をした。
「なぎちゃんっ! もう結婚の話までしたのっ? なっちゃんを見捨てるのっ?」
「何言ってるの夏海……、まだ酒が残ってるんじゃないか? 汐栞さんがドン引きしてるぞ」
「だ、だって不束者って! しかも名前で呼んでっ!」
未だ玄関にいる汐栞は夏海のキチガイじみた発言で顔面蒼白となっている。
夏海が「お嫁さんなのっ?」「そうなのっ?」
と立て続けに質問攻めにする。
汐栞は「あわわわっ」と完全に挙動不審。
不審者の様相となっている。
「この人は無視していいから部屋に行こう」
先程からの光景にやっと凪が声にだした。
「ひゃっ! あ、はいっ! お邪魔致しますですっ。あっでも少しだけ待ってください――えーとお母様っ! 以前私は凪くんに電車で助けて頂いた者なのです。そのお礼にとしては――ほど足りるものではありませんが、こちらをお受け取り頂けないでしょうか」
汐栞は靴を玄関に綺麗に揃え、そこから流れるような動きをとり、夏海の前で土下座外交なのか土下座謝罪なのか、
おいおいおいっ……。
「ちょっ汐栞さんっ、そんなことしなくていいんだっ。夏海っ! 余計なこと言うからっ!」
凪は夏海に大声をだした。
汐栞は未だ突っ伏している。
夏海は「はわわ」と口をパクつかせ必死に汐栞を引き起こそうとしている。
が、汐栞は「その節はっ」と。
凪はその光景にを目にこれは漫才か?
はたまた時代劇か?
と誰が見ても錯覚を起こしてしまいそうな状況だ。
なんとか夏海と凪の二人がかりで汐栞を床から引き剥がす。
凪の部屋へと汐栞を連れていくのに十分ほどかかったのではないだろうか。
(この子はひょっとすると天然なのだろうか……)
計算なのだとしたらとんでもない逸材なのだろうと凪は冷や汗を流してしまう。
もちろん凪の交流遍歴としては複雑な心中。
なんともお察ししますな状態だ。
暫く無言のまま部屋で二人きりの凪と汐栞。
やっとなのか、夏海が茶菓子を用意してくれた。
が、凪同様に先程の汐栞にトラウマでも抱えたのだろうか。
なんとも形容し難い表情で「ごゆっくり」
と残し静かに消えていった。
「お、騒がせしてしまい……」
「そんな凹まなくても大丈夫だよ、はは……」
汐栞は自身の行動を悔いているのだろうか。
瞳からは光を失っているようにもみえる。
おデコには縦線でも入っているような表情だ。
そんな錯覚さえ凪は覚えてしまった。
「……」
「そ、それじゃあ始めようか。ちなみに描き上がるとは思えないからラフだけになるけど大丈夫かな」
いたたまれなくなった凪は部屋で正座する汐栞に声をかけた。
「はいっ。では着替えますね」
「……は、い? ってストッープ!」
何が起こったっ!?
女子高生って急に服を脱ぎ出す生き物なのか?
凪が今にも全布を脱ぎたいのか服に手をかける汐栞を咄嗟に制止する。
汐栞が一瞬だけ首を傾げ「おおっ」と。
その表情は納得しましたっとでも言いたげに、
「おっ、お見苦しい物をお見せしてしまい――」
今度は後ろを振り向き着替えようと上着に手をかける。
「いやいやいやっいきなりは困るっ」
「し、しちゅれいしましたっ!」
凪は家が揺れるほどの声で叫んだ。
が、大声に驚いたのか汐栞はカミカミで頭を下げている。
「あー、ごめんね、着替えたいんだね、なら俺が出てるから終わったら声掛けて」
汐栞はいつもの口を抑えるポーズを取っている。
が、それは笑いたいからというより盛大に噛んでしまったためなのだろうか。
凪は溜息を漏らし部屋をでた。
が、夏海が聞き耳を立てて部屋の前にいた。
もう一度「はぁ」と凪は深く漏らす。
同時にゴチんっと一撃――夏海の頭に食らわせていた。
夏海が頭を擦りながら歩くその、猫背の後ろ姿を凪が眺め、色々と困惑の極みだ。
凪は「痴漢や盗撮にあうのも……」頷けるな。
と、凪は少しだけ呆れていた。
暫く凪が部屋の前で追いつかず部屋の前をウロウロしていると、
「お待たせ致しましたっ」
と、汐栞の声がしたので凪が部屋に戻ると、
「ぬはっ!?」
「少し、恥ずかしいですね……」
部屋には『兎の姿』をした汐栞がいた。
更にその頭にはうさ耳よろしくと言っている、
そんな別人とも言える月ヶ瀬 汐栞がたっていた。
どんな言葉を伝えていいのものやら。
と、凪はとりあえずの感想を伝える。
「ちょっとあんた達ぃ――とでも言いそうだね……」
「これなら凪くんも知ってるかなって思ったのです」
汐栞は照れくさそうにモジモジしながら顔を
どうしたものか。
「そしたら部屋狭いからあれだけど、そこの椅子にかけてじっとしててね」
「は、はいっ! よろしくお願いします」
(うさ耳めちゃくちゃ揺れるなぁ)
汐栞が来てからゆうに一時間近く経過してるかもしれない。
が、やっとのことで凪は旧式のタブレット画面に線を入れていく。
絵を描き始めた凪は完全に先程のことなど忘れている。
まさに無心とでも言うのだろう。
本当に小さい頃以来の人物画だ。
さすがに下手すぎだな。
暫く無言で作業を進める凪に汐栞が、
「あの凪くん、話してても平気ですか?」
「あ、うん」
「ありがとうございます――えと、話せればで構いませんが――なんで人を、描かなくなったのです?」
(うーん)
と、凪は少し唸りペンが止まる。
「あー小さい頃さ、父親死んだんだけどあまり実感無かったのかな? わからないけど」
「……はい」
「である時、夏海――あー母親ね。夏海を描いてる時にその横に自分と、イメージの中の父親を描いたんだよ。なんとなくだけどね」
「……」
「そしたらさ、それを見た夏海がギャンギャンに泣き出しちゃってさ、小さかったけど「あー、描いたらダメだったのかな」って、なんとなく思ってさ、それからかなあ、人を描かなくなったの。って、ほんとくだらないだろ?」
「……」
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