第13話 隠者の社 11:出会い
「うーん。この子・・・ですね。」
「みたい・・です。」
切り倒した木々をクッションにして眠るかの様に人が横たわっている。
先生は異常に不思議がって独り言の様に喋り始めた。
「どうやって此処に来たのでしょうか・・・?」
「どういう事です?」
「そもそも私の隠れ家とその付近には結界の様なものが張られているんだ。厳密には結界じゃないんだけど・・・まぁ似たようなものです。なので、侵入する事は実質不可能な筈。それが魔物であっても・・・人であってもです。」
「でもこの子は現に此処にいますよね。考察よりも目に見える事に行動を起こしましょう。何かあったのかもしれません。」
思考に耽りそうになる先生に釘を刺した。
木々のクッションをよじ登り、眠る様に倒れている人のもとへ向かう。
「ふぅ・・・そうですね。確かに今はクロが正しい。何かあったらその時に何とかします。クロが。」
思考を放棄したな。そして責任丸投げしようとしてる。
まぁいいけど。
先生も木々を上ると早速容態を確認する。
「見た目の年齢はクロより・・・少し年下ですかね。酷い外傷はない・・・。擦り傷や打撲はいくつかありますけど、命に関わる様なものではありませんね。」
――しかしこの傷・・・これではまるで木々によって偶然助かった様な・・・。
腑に落ちない部分が多い。そもそも私が張っているのは結界なんて生易しいものではない。ここに入る事が可能なのは――。
「先生。とりあえず家に連れ帰りましょう。此処だとロクに看病も出来ない。僕が背負いますから。」
クロの言葉に意識が現実に引き戻される。
まぁ・・・・何となるか。いや、何とかするさ。
「あらあら・・・クロもお年頃ですかね?」
ん?何のことだろう。
「その子、女の子ですよ。」
ふぅん。で?怪我人で意識失ってる人を助けるのに男も女も無い。助ける。
「先生も馬鹿な事言ってないで行きますよ。」
少し残念そうな先生。
僕が照れて焦るとでも思ったのだろう。
「もー。面白くない。」
ぶーぶーと口を尖らせる先生。
エルマーが先生の肩に飛び乗り、顔にパンチを炸裂させる。その速度5発/秒。
「わかりました!悪かったですって!!」
気付けば緊張感は解け、笑いが起こる。
落ち着いた足取りで家へと戻る。帰りの道中、必要な個所に適宜包帯を巻いたり、容態を確認したりするエルマー。なんて出来る猫。あと包帯とか出てくるリュックの中身気になる。
家に着くと先生が指を鳴らして灯りをつける。僕も指を鳴らしたら灯りがつくんだろうか。今度やってみよう。
「ちょっと待っててくださいねー。」
先生はそういうと家の二階に上がっていった。
しばらくした後、再度先生の声がかかる。
「こっちに連れてきてください。」
そういえばこの家の二階って倉庫しか無い。食料その他諸々備蓄用の。
こんな短時間で片付く訳も無いし・・・さすがに倉庫に突っ込むなんて事しない・・・よな?
気を失ったままの子を背負いなおし、階段を上る。そして唐突な違和感。
この家の二階の扉は三つだ。三カ月も居た。間違える訳がない。訳がないんだけど――四つ目がある。扉を開けると僕の部屋と同じような造り。まだベッドもテーブルも無いけど。
「先生。これは?」
「ただの手品ですよ。」
ニッコリとはぐらかされる。気になる。
「さぁさぁ、考察よりも目の前の事をしましょう?」
ぐぬぬ・・・。その通りだが腹立つ。返された。この人絶対性格悪い。
「――エルマー。ストックまだありますか?」
「おうよ。まだ三セット分ぐらいは確かあるぞ。」
そういうとエルマーは背負っていたリュックをおろし、上半身くらいまでリュックに潜り込んで漁り始めた。
エルマーの後ろ足に力が入る。何かを引っ張っている様だ。
「――にゃあっっと!!」
掛け声と共にリュックからにゅにゅにゅっとベッドが出現。おいおいおいおい。もう突っ込む気にもならない。なんでも有りかそのリュック。中身見るのやめておこう。何かヤバいもの入ってそう。
「ほいほいほいっと!!」
続けて布団、枕、サイドテーブル、花瓶(花付き)がリュックからポイポイと出てくる。うん。驚き疲れた。無になろう。
あっという間に人が住むのに必要最低限なものが揃い、部屋が出来上がった。
「ありがとうエルマー。クロ、その子をベッドに。」
エルマーはニカッと親指らしきものを立てて、リュックを改めて背負いなおした。
僕は言われた通り、背負っている子をベッドに寝かせた。
先生が再度、真面目に容態を確認する。
「うん。やはり問題ないですね。魔道具が必要なほどの怪我はありません。道中のエルマーの手当で十分でしょう。じきに目を覚ますと思います。二人とも、お疲れさまでした。」
ほっと一息。と同時に襲い来る空腹と疲労。時間も時間。色々と忘れて動いていた。
「さ、今日はもう食事をとって寝ますか。あ、お風呂と歯磨きもサボっちゃダメですよー。」
はぁい。とだるそうに返事を返し、済ませる事を済ませて寝床につく。
――ベッドの中でしばらくソルの宝石を眺めてから扉を閉じた。
冷たい筈なのに心を温める様な力。何故か嬉しい。
瞼を落とし、ひとときの安らぎに身をゆだねた。
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