第6話 隠者の社 4:フィラメント
「さてクロ。各大陸のエンブレイシアはどうやって各大陸の中心国家となりえる程の勢力を保っていると思う?」
問いに一考する。
「想像もつきません。エンブレイシアは何故か各大陸に必ずある。民主的な国にしろ独裁的な国にしろ、各大陸に一つずつあるという事が不思議・・・というか不自然です。・・・まぁ死者の国の様な例外もあるみたいですけど・・・。」
ロノが少し驚いた表情を見せた後やんわりと微笑んだ。
「君は・・・私が思う以上に賢いのですね。そうなんです。不自然なんですよ。そもそも各大陸に筆頭とする国が一つずつ必ずあるなんて。ですが・・・。」
「ですが・・・?」
思わずオウムを返す。
「これは意図的なものなのです。何せ各精霊及び二柱の神がその大陸を担う者をたった一人だけそれぞれ選ぶのですから。」
なるほど確かに。それなら合点がいく。
「クロはもう気づいているかもしれませんね。この世界には様々な種族や怪物、魔物と呼べるようなものまで多種多様な生物が棲息しています。その統制にいちいち彼らの手を煩わせる様ではとても世界の均衡はままなりません。大陸に生きている命それぞれの思惑や生きて繁栄したいという本能を利用してバランスを取っている感じでしょうか。」
一つ間をおいてロノが続ける。
「選ばれし彼らは≪紋章持ち(フィラメント)≫と呼ばれます。そしてフィラメントが治める国こそがエンブレイシアと呼ばれるのです。まぁ各属性のフィラメントには別の俗称がある事が多いんですけどね。」
だがまだ謎が残る。何も僕を助けた理由と合致しない。すごくまだるっこしい説明に付き合わされている感覚。腑に落ちない。
「そして――。この選別には各属性による例外は無いんだ。」
耳を通り抜けようとしたロノの言葉をせき止めた。≪例外は無い≫?
思わず疑問が口をつく。
「例外は無いって・・・。冥界はどうなんですか?そもそもエンブレイシア自体存在しないんじゃ?」
「エンブレイシアが存在しないからと言ってフィラメントが存在しない訳ではないんですよ。実際に私の目の前にいるわけですし・・・。君がそうなのです。改めてクロ。冥属のフィラメントである≪屍霊術師(ネクロム)≫。」
急な情報量に押し流される思考を必至で取り纏めようとするが、眩暈に近い感覚に気が遠くなる。
今の自分が遠い存在であるような不思議な感覚。
「大丈夫ですか?」
ロノの気遣いに反応する余裕が無い。大丈夫ではあるが現実に気後れする。
「え、あ、・・・はい。」
「マスター。一旦休憩だ。朝にしては話が重くて胃もたれしそうだ。」
気を利かせてエルマーが口を挟む。なんて出来る猫なんだ。
エルマーの言葉に数秒あってからロノが手を一つ叩いた。
「そうですね!ちょっと小難しい説明も多かった事ですし少し休憩にしましょう。」
ニッコリとしたロノは鼻歌交じりに朝食の後片付けを始めた。
テーブルの上で一緒に話を聞いていたエルマーがゆっくりと僕に歩み寄る。
「なぁクロ。詳しい話を聞きたい気持ちは分かるし、何かよくわからんデカい事言われて気後れしてる感じも分かる。ロノはちょっと疎い所があるから口を挟んだけど・・・。急がなくてもいいんだぞ。時間はまだまだあるだろうに。」
エルマーの言葉に少し心に余裕が生まれる。少しだけ笑みがこぼれた。
でもまだ納得いかない事が多い。僕はそもそも違う世界の様な所にいた筈。それが何故この世界に関係がある人間なんだ?
しかもそんな重要な。それに僕はその世界で果てしないほどの時間生き延びた。その間この世界が存続しているのであればネクロム?だったかの必要性はさほど高くない。
存在しないと困る何かがあるのか・・・それとも・・・必要となったのか。ダメだ。まだ情報が断片的過ぎて繋がらない。
「これは・・・ロノと同じタイプだな。」
再び考えこみ始めたクロを尻目にエルマーは何度目かの食後の毛づくろいを再度始めた。
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