第2話 男としての葛藤
「やっほー!」
お昼を過ぎた頃には、
「お疲れさん。なんも変わりないか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
「わ、私! 頑張っている!!」
賢也君の労いの言葉の後に、店内の床を軽く拭いていた
手持ち無沙汰なのもありましたが、そろそろまかないを準備するのに……沙羅ちゃんには細かい部分をお願いしていたのです。
ちなみに、大きくなった時は自分のことを『沙羅』と呼んでいたのを、少し矯正しまして『私』に直させていただきましたが。接客の仕事をしたいと言ってくださった時に決めたことなんです。
「そーかそーか。ええことや」
「うん!」
賢也君は沙羅ちゃんの本体である綿帽子を撫でてくださいましたが、沙羅ちゃんは嫌がっていません。賢也君を僕と違って……呼び捨てにしていますが、主でもないからと前には言っていました。
いけませんね……大恩人で僕の親友に嫉妬を感じると。
これも……育んできた恋愛感情の変化というものでしょうか。
もう『お父さん』ではいられそうにありません。
「
颯太君がカウンターに腰掛けると、実にいい笑顔でいらっしゃいました。
「……わかりますか」
「一年経ってないけど、僕だってここの常連だよ?」
「……僕は心が狭いですかね?」
「そう? 恋してるなら普通じゃない? 賢也君には
「……そうですけど」
そのことですが、今月に入ってからですけど。
おふたりは、なんと同棲を始めたんですよね?
笹木さんは人間のふりをして普段生活なさっているので……賢也君との生活は大丈夫だと聞きましたが。
賢也君はそれほど、彼女を大切になさっています。
僕も沙羅ちゃんと、似た生活になっていますが……最近までは『お父さん』としていたんですよ?
恋人になりたい、とどのタイミングで言えば!?
「まあまあ、成るように成るさ?」
ひとり、颯太君はのほほんとしていましたけど。
とりあえず、注文を聞くとカフェラテを頼んでくださいました。
「柊司さん! そのカスも食べたい!!」
賢也君との話が終わったのか、沙羅ちゃんが実にいい笑顔でこっちに戻ってきました。
そのキラキラ笑顔に……否定など誰が出来ましょうか?
僕は頷いてしまいます。
加えて……近いうちに、変化していた気持ちを伝えてみようと決意もしました。
(……哀しいだけの人生ではありません)
そう思えるほど、家族を失った悲しみが……少しずつ、ほどけていく日々を今過ごしているのですから。
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