第3話 総大将再び



「何やら楽しそうだねぇ?」



 一陣の風が吹き、店の中に現れたのは……主ではない。


 洋物と和服を合わせた……不思議な服装をされた、見た目は初老の男。


 しかし、纏う妖気は絶大。


 一度お会いしたことのあるあやかし……我らあやかしの総大将。


 ぬらりひょんの、間半まなか様だ。



「あれ? 総大将、珍しい」


「コーヒーを飲みに来たのだが、彼は留守のようだね?」


「その留守を狙ったのでは?」


「はは、バレたか?」



 総大将は、沙羅さらの前に来ると……本体の部分を軽く手で撫でてくださった。



『う?』


「うんうん。順調に妖気も成長しているようだ。これだと……あの子と同じ大きさになりそうだねぇ?」


「総大将もそう思うと?」


「色々なあやかしと接点を得たのもあるだろうねぇ? 猫人の大将もだけど……随分と良い出会いがあったのだろう。そして、自分が成長を望んでいるようだ」


『……はい』



 沙羅は、大きくなりたい。


 主の……柊司しゅうじ様の隣りに立ちたいのだ。


 双樹ここで、こちらのヒト側の場所で。


 あの方と共に……生活をしたいのだ。


 もちろん、こぉひぃや豆のカスが美味しいのもあるが……賢也けんやと食べている美味しいものも食べたい。


 あれらは口に合わず……小豆とモチ以外は、美味くなくて吐き出してしまうが。



「……うんうん。それだけの覚悟があるのなら、僕も手を貸そうか?」


「総大将……そうすると、沙羅がすぐに成長してしまうでしょう?」


「はは、やはりダメか?」


「いきなりでは、柊司君も混乱しますよ」



 大きくなれるのなら! と嬉しくなったが……颯太ふうた様がおっしゃっるには、手順というものがあるそうで。


 今この場で沙羅が成長してしまえば……主が困るかもしれないと。


 先ほどおっしゃっていたことと少し違うのでは?


 しかし、主の迷惑になることは……したくない。


 だから、沙羅もぐっとわがままを堪えた。



「そうかそうか。……しかし、自我を持つケサランパサランが……ヒトを恋慕う、か」


「総大将の周りにもたくさんいらっしゃるのでは?」


「はは。名古屋に行くと多くてねぇ? 君も知っている赤鬼には子が出来たし」


「そうですね。よく出来たものです」



 ……子供。


 沙羅は一応『女』なので……もし主と結ばれれば、子を宿すのは沙羅だろうが。


 主と沙羅の子……と考えてしまうと、頬が緩むのがわかった。


 沙羅の顔は主に似せてあるらしいが……主に似る子であれば、きっと素晴らしい子供になるだろう!!


 まだ愛の告白も何もしていないのに、考え過ぎだと思われても……こればかりは仕方がない。


 主の病も治しつつ、沙羅も成長出来れば……主は、沙羅を受け入れてくださるだろうか?


 とりあえず、総大将らは沙羅以上に主との未来を好き勝手に話されていらっしゃるが。

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