第十九章 綿ぼこりと雪女

第1話 雪女・乃絵


「さ、さき……さん?」



 僕もですが、賢也けんや君も。


 彼女の周りに現れた、柔らかい雪にびっくりしてしまい……思わず、変な声が出てしまいました。


 けれど、笹木さんは僕らを見ても苦笑いしたままで……チラッと僕の隣にいる颯太ふうた君を見て、深くお辞儀されました。



「座敷童子の御方はお久しゅうございます」


「……雪の一角?」


「……はい。雪の者。俗称は、雪女。乃絵のえと申します」


「「……雪女」」



 笹木さんが、人間じゃないのはわかりましたが。


 雪女って言うのには驚きました。


 不躾ながら、人間の世界に居たら溶けちゃうんじゃないかと勝手な想像をしてしまいましたが。



「……ヒトの世界に溶け込んで?」


「……はい。ヒトと関わるのが夢で……何年もかけて、今の場所に。ここに至ったのは偶然ですが」


「僕の気配を感じても?」


「……はい」



 すると、ふんわり風が吹いたかと思えば。


 笹木さんの姿が、いつもの『笹木乃絵さん』ではなく……白いお着物と水色の長い髪が特徴の、とてもお綺麗な女性に変化しました。


 それを見て、賢也君が真っ赤になって固まるのは仕方がありません。



「……別に溶け込むのは悪いと言わないよ? けど、僕の領域を世間の目に晒すのは?」


「こちらは……本当に素敵だからと思ったまで! ケサランパサランの加護があるのは重々承知でしたが、それでも……雑誌には載せたいと思っていたのです!!」


「……本音?」


「…………本音、です」


「歯切れ悪いね?」


「……我欲は、多少あります」



 笹木さんは、今度は賢也君をチラッと見ました。


 賢也君はその視線に、沸騰するくらい顔がさらに赤くなってしまいましたが……。



「お……おん?」


「こちらの……オーナーさん、と。もう一度、接点が欲しくて」


「「お?」」



 僕も驚きましたが、真剣モードの颯太君まで拍子抜けしたような声を出してしまいました。


 賢也君は聞こえていたでしょうが……完全に固まっちゃいました。せっかくの告白に、気絶しなきゃいいんですが。



「もちろん、店長さんのコーヒーが美味しいのは本当です。ですから、笹木乃絵としてもきちんと応対はさせていただいたんです」


「あ、いえ。それは全然問題ないんですけど」



 賢也君が、妖怪さんに好意を持たれた。


 これは凄いことですよ!


 さっき、火坑かきょうさん達の事はお聞きしましたが、人間と妖怪さんとの恋愛は有りだと!!


 けど、そうすると。



(双樹ここはいつまで続くでしょうか……?)



 賢也君のいない、双樹は……とても寂しくなります。



「ふーん? そう? 賢也君は満更でもなさそうだけど?」


「本当ですか!? 我孫子あびこさん!!」


「うぉ!?」



 笹木さんは、颯太君の言葉が嬉しかったのか……まだ握っていた手をさらに強く握られ、賢也君のキャパが崩壊しそうでした。

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