第2話 オーナーの春?

賢也けんや君!? 今のは本当ですか!!」


「へ?」



 無意識のうちに呟いていた言葉を、僕は聞き逃しませんよ!?



「今、笹木さんを『可愛い』って言ったじゃないですか!!」


「へ? い、いや……〜〜あぁあ……!!」



 やはり、意識して口に出していなかったようです。そして、僕が聞き取っていたことも。


 賢也君は頭を抱え、形の良い耳もだんだんと赤くさせていきました。



「……賢也君に、春ですね!」


「言わんといて、柊司しゅうじ! まだ……まだ、確定や」


「やと言わんって思いながらも、自分で墓穴掘っていませんか? 顔は正直ですよ?」



 何十年、幼馴染みをしていると思っているんですか?


 たしかに……お互い、恋愛初心者ではありませんが。このような表情になると言うことは、賢也君としての本気度はかなり高いです!!



「……あぁ〜。マジか」



 カウンターに突っ伏して、僕からの指摘にダメージ大を受けたようです。



「あう、あ?」



 声のボリュームで起きた沙羅さらちゃんは、コップを振って僕にコーヒーが欲しいとアピールしてきました。


 僕は賢也君を放っておいて、沙羅ちゃんのご要望にお応えしますとも。コーヒーはさっき、カフェラテ用に作ったものをぬるま湯で薄めたものです。



「賢也君、アピールは早いうちがいいと思いますよ?」



 仕事としての連絡手段は持っているんですし、今日は素の自分を見せているんです。笹木さんは特に嫌悪感を持っていませんでしたから、大丈夫だとは思いますが。



「……せやかて。こんなオッサンがやで? あの子はまだ若いし……もっとええ出会いが」


「後悔したら遅いですよ? あと、年齢は関係ないと思います」


「……お前に言われたら、耳痛いわ」



 僕は……大切な家族に、二度と会えません。


 賢也君のご家族はご存命ですし、それぞれ幸せな家庭を築いていらっしゃいます。もちろん、賢也君もそれ以上に大切な人を見つけていただきたいです。



「僕も……まだ万全とは言えませんが、今は沙羅ちゃんがいます」



 本当の家族ではありませんが……実の家族と同じくらいか大切な『養女家族』です。


 今まで、賢也君からおんぶに抱っこの状態でしたが……それからも、少しずつ卒業は出来ると思うんですよ。


 大切な瞬間を、下手に見逃して欲しくないんです。



「…………けど、誘うってどうすりゃええんや」


「…………恋愛初心者ですか?」


「……あんな可愛ええ子やで? 既に彼氏とか居てもおかしないわ」


「……それは、僕も否定出来ませんね」



 そこは……たしかに、先に確認しなくてはいけないでしょう。


 間違ってからでは、賢也君が傷ついてしまいますし。



「んー? つがいの匂いはしなかったよ?」


「ドワ!?」



 割って入ってきたのは、座敷童子の颯太ふうた君でした。手には、扇子以外に何か封筒を持っていましたが。



「こんにちは、颯太君。つがい? と言うのは?」



 いつものやり取りなので、僕もだいぶ慣れてきました。



「えーっと、恋人? 婚約者? だっけ? 誰のものでもない匂いはしたよ? 賢也君はああ言う子が好みなんだね?」


「……いつから居ったんや」


「これ渡しに、ちょっと隠れてたんだー」



 椅子に腰掛けてから、颯太君は封筒を賢也君に差し出しました。

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