第十八章 綿ぼこり、載る②

第1話 雑誌の打ち合わせ



「大変お待たせしました!」



 そろそろ、今年の暮れ間近……あと少しで、クリスマスと言う時期に、雑誌編集者の笹木さんが来店してくださったんです。


 もちろん、我が双樹そうじゅの雑誌特集のついてです。どうやら、ほぼほぼ掲載のページが完成したようですが。



「「……おお」」



 ちょうど賢也けんや君もいましたので、一緒に中身を拝見しましたが……想像以上の出来栄えでした。


 顔出しをNGにしましたのに、さすがはプロというクオリティーだったんです!!



「上とも色々掛け合って、概ねこのような具合にしようとは思っているのですが……いかがでしょう?」


「僕はいいと思います」



 コーヒーを淹れている自分の手が写った写真だけ見ても、『カッコいい!』と安直に言葉で出してしまいそうになりました。


 しかし、店長は僕でもオーナーは賢也君ですからね?



「んー……こことここの色味が、少し気になりますね」



 と、標準語で、笹木さんに指摘を出すのは……やはり、経営者というプロ視点をお持ちだからでしょう。


 笹木さんも、メモを取りながら賢也君の隣に立ちました。



「枠外は、濃いめがいいでしょうか?」


「んー、中間がいいですね。写真が少し暗めなので」


「あー……そうですね。セピアをイメージしたんですが」


「せっかくの特集ですし、明るめで」


「上長と掛け合いますね」



 などなど、僕は話についていけないので二人分のカフェラテを淹れながら、耳だけ傾けていました。


 沙羅さらちゃんも同じですから、バギーの中でうとうとしています。



「お待たせ致しました、カフェラテです」


「あ。ありがとうございます!」



 話がまとまりそうなところでお出しすると、笹木さんが弾んだ声を上げられました。外は雪などはまだですが、かなり寒いですからね?


 カップを持つ手が、暖を取るようで可愛いらしかったです。


 賢也君は逆にすぐに持ち手を掴み、くいーっと飲み始めました。猫舌じゃないから出来る飲み方ですね?



「今日も美味いで、柊司しゅうじ


「お粗末様です」


「あれ? 我孫子あびこさん、普段は関西弁なんですか?」


「あー……出身は愛知ですけど。両親が関西なもんで」


「じゃ、無理に標準語じゃなくていいですよ?」


「……じゃ、お言葉に甘えて」



 メールでも標準語でやり取りするのが普通ですし、色々気を張っていたのでしょう。


 笹木さんが大丈夫と言ったおかげで、賢也君の肩の力が抜けたようです。


 それから、カフェラテをお供に……二人は何度も何度も打ち合わせをして。笹木さんが納得されてから、彼女は帰って行かれました。



「クリスマスまでには、もう一度精査してきますね!!」



 クリスマスもお仕事なのは、お疲れ様です。


 もちろん、僕らも仕事に変わりないですが。



「……やっぱ、可愛ええな」


「え」



 ぼそっと呟いた言葉を、僕は聞き逃しませんでしたよ!?


 季節は冬ですが……どうやら、賢也君に春が来てしまったかもしれません!!

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