第3話 価値の高い欠片③

 ちょっと緊張しましたが、狐耳の男性はもう一度僕らと颯太ふうた君を交互に見ますと……ぺこりとお辞儀をしました。



「「?」」


「ようこそ、いらっしゃいました。欠片の換金所へ。さっそくですが、拝見しても?」


「ほんなら、うちから」



 美麗みれいさんが、風呂敷に包んでいた『心の欠片』を取り出し……男性に手渡すと、彼は目を少し丸くしました。



「これはこれは……素晴らしい欠片ですな? 競売が荒れること間違いなしの逸品です」


「是非、相応しい方に渡って欲しいんよ。お代は、とちはんに任せますー」


「いやはや……素晴らしい。これをどちらで?」


「僕が、こっちの子からお土産がわりに引き出したんだ〜!!」



『ね〜?』と言わんばかりに、颯太君は僕の腕を突いて誇らしげに言い切りました。


 栩……と呼ばれた男性は、目をさらに丸くされて、ささっと僕の前にまできました。



「そちらさんが?」


「ど、どうも……」



 沙羅さらちゃんを抱っこしながらなので、軽くお辞儀をすると……何故か、栩さんに何度もお辞儀されてしまいました!?



「いえいえいえ!? このような上物!! 奇異な目で見てしまい、大変申し訳ありませんでした!! こちら、相応以上の価値がある欠片!! ありがたいことです!!」


「栩〜? さらに面白いものがあるよ〜?」


「なんと!?」



 颯太君が、扇子からさっき沙羅ちゃんが出した欠片……を栩さんの前に差し出すと……栩さんの眼球が心配になるくらい、さらに大きく見開きました。



「……おっさん、大丈夫か?」



 賢也けんや君が心配されるくらい、栩さんの驚きぶりには僕も少し心配になりましたが。


 第一印象の、冷静沈着だったものが崩れる勢いの変貌ぶり。


 これは……本当に、僕と沙羅ちゃんの出した『心の欠片』と言うものは、彼らにとっては大変貴重なものなのでしょう。



「……お見苦しいものをお見せしました」



 十数分後くらいに、栩さんは落ち着いたようで……軽く咳払いされてから、僕と沙羅ちゃんの心の欠片を宙に浮かせました。



「だ、大丈夫ですか?」


「いえ、お気遣いなく。しかし……このような欠片が二つもですか。すぐに換金といきたいところですが、店内の者ら総出で行わせてください。相応しい金額を、和菓子の……方には、口座に。そちらにはいかがなさいましょう?」


「ん〜? とりあえず、僕の口座に入れて? あとはなんとかしとくから」


「かしこまりました」



 では、と栩さんは欠片を持って奥の方に行ってしまいました。



「じゃ、帰ろ?」



 用件などはこれで終わったようなので……僕らも、帰ることになりました。


 途中までは美麗さんと。別れてからは、颯太君の後ろをしっかりついて行きました。



「妖怪にも銀行口座みたいなんがあるんか?」


「あるよ〜? ひねりもなく、『あやかし銀行』って言うのが。商売以外にも、ああやって心の欠片で得た大金を振り込むのに」


「「なるほど」」



 あの自動扉然り、人間の文化を真似した事は色々あるようです。


 そして、話しながら歩いていると、鳥居をくぐっていたようで。気がついたら、双樹そうじゅの近くに立っていました。



「じゃ、お疲れ様〜。結構なお金入るだろうけど、なんとかしてあげるから!」


「……颯太君は、本当にいいんですか?」



 そのような大金、沙羅ちゃんのこともあるので一部だけでも渡したいのですが。


 質問しても、颯太君はにっこり笑うだけでした。



「んー、気になるなら……柊司しゅうじ君のご飯食べたいなー?」


「お任せください!!」



 材料は限られていますが、せっかくですし……双樹で作りましょう!

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