第十三章 綿ぼこりの仮装②

第1話『キラキラコーヒーゼリー』

 ハロウィンイベントにも、特に差し障りなく参加出来ますので。


 三日目の時には、少し手軽なものをご用意しましたよー?



「う?」



 その日もブースに立ちますが、沙羅さらちゃんが本日はかぼちゃお化けのジャックオランタン風に可愛く仮装された横で……僕はクーラーボックスから、あるものを取り出しました。



「なんや、柊司しゅうじ? なんぞ用意でもしたんか?」


「ええ。まだ少し暑い時もあるので」



 長野でも、高地でも。


 少し暑いには暑いんです。愛知に比べれば全然涼しいんですけど。


 しかしながら……用意したに越したことはありません!


 僕は出したものを、賢也けんや君達の前に出しました!!



「うー?」


「お? コーヒーゼリーか?」


「はい! 合間の沙羅ちゃんへのおやつになるかとも思いまして!!」



 これなら……ポーションミルクをかけなければ、おそらく沙羅ちゃんにも召し上がっていただけるでしょう!!


 なので、賢也君にはポーションミルク掛けのを。沙羅ちゃんには、何もかけていないそのままを食べていただきますよ? 僕は、沙羅ちゃんのためにスプーンであーんをしました。



「あう!」



 ひと口入れると……やはり、あんこよりもコーヒーの方がお好みだからか。とても顔を輝かせてくださいました!


 人間だと赤ちゃんにカフェインたっぷりのモノを……と言われるかもしれませんが、沙羅ちゃんは人間ではないですしね?


 次が欲しいとジタバタされた沙羅ちゃんに、僕は最後まであーんをやめませんでしたよ?



「うんま!? 甘さもちょうどええし……味気ないポーションとも合うなあ?」


「砂糖をきび砂糖にしたせいですかね?」



 精製糖ではありますが、茶色が多く残ったお砂糖は黒糖とまた違った味わいですから。


 僕は昨夜まで散々味見しましたので……お二人に合格点をいただけたらば、用意していたポップをコーヒーのポップの横に置きました。



「……ゼリー?」



 少しして、親子連れのお子さんの方がポップを気にしてくださいました。


 沙羅ちゃんがおととい着たよりは、さらにキラキラ感が増した魔女っ子スタイルでしたが……お母さんに手を繋いでもらっているのでまだ幼いです。


 だいたい、保育園か幼稚園の年長さんくらいでしょうか?



「あら、ゼリー? んー……けど、これコーヒーよ? あなたにはまだ無理じゃないかしら?」


「……ゼリー」


「……食べたいの?」


「うん……」



 全くダメとは言えませんが……人間の子供。まだ小学生でもないお子さんにも、カフェインの取り過ぎはよくないですからね?


 接客する側なので、必要以上にはアドバイスできないのもありますが。



「んー……じゃ、ひと口だけ。ちゃーんと食べるのよ?」


「ほんと!?」


「お兄さん、さっき頼んだコーヒーもですけど。こっちのコーヒーゼリーもお願いします」


「はい。合計、七百八十円になります」



 ブースもですが、出張営業も兼ねているので……高いのは仕方がありません。コーヒーゼリーは少しお安めになってはいますが。


 お母さんに、まずはコーヒーゼリーを渡しました。ポーションはつけてほしいと、プラスチックの器に一緒に盛り付けましたよ? 付属に、スプーンも添え……娘さんに、ほんのひと口だけ食べさせますが。



「……苦ーい」



 やはり、大人には普通でもお子さんには苦かったようです。



「言ったでしょう? ……あら、大人にはちょうどいい苦味だわ」


「……お母さん、すごーい」


「お父さんでも大丈夫だと思うわ。お兄さん、これ手作りですか?」


「はい。コーヒーは僕の手ずから……あとは、ゼラチンなどを入れるところは普通の作り方ですよ」


「んー……じゃあ、私でも大丈夫かしら?」



 コーヒーを持ち歩くようなので、ゼリーはお母さんがきちんと完食し……『ありがとう』と言ってから帰っていかれました。


 きっと、お子さん用にもう少し甘くしたコーヒーゼリーを作るかもしれません。


 良いインスピレーションを与えたことに、僕は少しほっと出来ました。娘さんも、きちんと口にしたものは飲み込んでくれましたし。



「ガキには早いけんど……まあ、ああ言うの覚えて好き嫌い出来るしなあ?」


「ゼリーは子供の好きな食べ物ですしね?」



 僕自身も……姉と一緒に、母が作ったゼリーをキラキラしたものだと思って美味しく食べたものです。

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