第2話 本職に褒められる

颯太ふうたはんから聞きましたえ? こちらのハロウィンイベントに参加されていると」



 颯太君には、お店のお休みなどをお伝えしただけですのに……わざわざ、美麗みれいさんにまで伝達されたとは。



「いらっしゃいませ。こちらではコーヒーの実演販売のみとなりますが」


「ほんなら……店長はんのオススメでええどす?」


「でしたら、ブルマンのブレンドを。……この間の御礼も兼ねて、サービスさせてください」



 最後の方を小声でお伝えすると、美麗さんはふるふると首を横に振られました。



「おおきに。けんど、あん時の御礼はうちの試作を召し上がっていただいたんや。ここは、きちんと支払わせて欲しいんよ」


「ですが……」


「どうしても言うんなら……今度、颯太はんにお願いしてもろて。向こうのうちのお店に来て欲しいわー。それなら釣り合い取れるやろ?」


「美麗さんの?」



 それは……物凄く興味があります。


 しかし……僕だけが徳をしているような気がしますが、彼女はニコニコ笑顔のままです。



「姉ちゃんの店? 屋台では肉とか扱ってたなあ?」


「ほっほ。あれはうちの好みや。本業は和菓子職人なんよ」


「「和菓子!?」」



 ですから……あのように、素晴らしい餡子などの和菓子を作れたわけですね!?


 これは……沙羅さらちゃんの新たなご飯が見つかるかもしれません!!


 沙羅ちゃんの現状をお伝えすると、美麗さんはさらにニコニコ笑顔になられました。



「ほんなら、尚更やなあ? うちでお役に立てるのなら幾らでも協力しますー」


「では、腕によりをかけたコーヒーを」



 いつも以上に、丁寧に淹れ上げれば……カップを受け取った美麗さんは、惚れ惚れするくらい綺麗な所作で飲んでくださいました。


 格好は特に仮装されていませんのに、人間姿でも美女なので周囲の注目を集めてしまいました。



「美味しいわぁ。丁寧な作り手の気持ちが素直に伝わってくるえ? 店長はんの気配りそのものや」


「……ありがとうございます」



 そこまで言っていただけたら……調理師もですが、バリスタの資格も本格的に考える良い刺激になりました。



「う、あ?」


「おやまあ、店長はん泣いてますえ?」


「……柊司しゅうじは感動屋さんやからなあ?」



 たしかに、泣いてしまっていますが……辛くなどはありません。


 これは……心が久しぶりに喜びを得た、嬉し涙なのですから。

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