第3話 何事も挑戦

 火坑かきょうさんに改めて御礼を伝えますと、彼はにっこりと笑うだけでした。



「お役に立ててなによりです」



 妖怪さん達と関わるようになって……まだまだ日が浅いですが、このように紳士な方は初めてです。


 どこか、懐かしく感じ……ついつい甘えてしまいそうなくらい。僕はいい年齢なので、そのようなことは出来ませんが。



「本当にありがとうございました」


「いえいえ、総大将のお願いもありましたから。あの方が気にかけているということはよっぽどのことです」


「……はい」



 沙羅さらちゃんが不便をしているようには見えませんが。


 やはり……主人として、養父としても……沙羅ちゃんをきちんと育てると決めた僕なので。これからどのように成長するかはわからずとも……ちゃんとしたご飯は口にして欲しい気持ちがあったんです。


 まだお菓子ですが……それでも、『食べ物』を口に出来た喜びは、夏祭りのあの日からずっとありました。とてもとても嬉しかったんです。



「ねぇ、柊司しゅうじくーん」



 僕が少し涙ぐんでいると、颯太ふうた君が空になったカップを持ち上げました。



「はい?」


「今なら沙羅もさ? コーヒーでも牛乳使ったのとか飲めそうじゃない?」


「……あ」



 たしかにそうです。


 小豆には、砂糖もたっぷり使っていますし。


 もち米ではよくわかりませんが……お米にはたしかライスミルクと言うものもあるようですし。


 ここはひとつ……試してみましょう!!


 もちろん、他の皆さんにもフワッフワのカフェラテを振る舞いますよ?



「う、あー!」



 沙羅ちゃんの……カフェラテ初デビュー。


 ホットではなく、飲みやすいアイスにしてみました。


 コーヒーが薄まりにくいように、氷は少なめ。なので、アイスと言ってもぬるめですが……果たして、沙羅ちゃんは飲めるのでしょうか?


 取り替えた赤ちゃんコップに移し替えて、ストロー付きのふたを装着して渡してみると。


 沙羅ちゃんは、しばらくじーっと見つめていましたが……。



「え」


「うー」



 コップごと、僕につきかえしてきたんです……。



「うーん? やっぱり、まだ早いのかな?」



 颯太君がいつに間にかこちらにいたので、少々どころではなく驚きましたよ!? 音もなく近づくのはびっくりします!



「う?」


「沙羅。柊司君がせっかく作ってくれたんだよ? いらないの?」


「……うー」



 諭すような言葉にも、沙羅ちゃんはイヤイヤと首を左右に振りました。やはり……まだ牛乳は難しいでしょうか?


 以前は、口に一応含んでくださいましたのに。



「おーい。なんや、客来とらんようや……うっわ!?」



 ちょっとしょんぼりしていると、賢也けんや君もやってきまして。


 火坑さんに気づくなり、思いっきりひっくり返ってしまいましたが……今は笑う余裕もありません。

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