第九章 綿ぼこり食生活改善③

第1話 夫婦の正体

 光が消えた後には……響也きょうやさんであるはずの男性がいた席には、別人がいらっしゃったんです!


 人間ではなく……猫の頭を持った、人? 妖怪さん?



「この姿では、初めまして。猫あやかし……名を火坑かきょうと申します。ヒトとしての姿では、香取かとり響也と言いますが」


「妻の美兎みうです」



 口が『にゃー』とかではなく、ちゃんと日本語が出てきたんです!? 美兎さんは変身されることなく、軽くお辞儀するだけでしたが……人間さんなんでしょうか?



「ど、どうも……店長の三ツ矢みつや柊司しゅうじと言います」


「驚かせてすみません」


「いえ。……妖怪、さんですか?」


「はい。以前は、冥府の役人の一角でしたが。今は愛知の栄にあるあやかしの界隈にて、小料理屋を営んでいる者です」


「……というと」



 たしかに、ぬらりひょんの間半まなかさんが紹介したいと言ってくださった妖怪さんなのだろう。懐かしい地名も少し出てきましたが。



「ええ。多少料理に心得があるんです。間半さんよりお聞きしましたよ。そちらの沙羅さらさんが……元はケサランパサランだと言うこと。まだ、食事が満足に取れないことも。なので、手助けして欲しいとも頼まれて」


「それは大変ありがたいです!」



 料理人だけでも素晴らしいことなのに、妖怪さんであれば事情通ということ。


 あんこコーヒーはダメでしたが、沙羅ちゃんの食生活改善のためにアドバイスをいただけるのであれば……非常に助かります!!


 思わず、注文いただいたコーヒーをお出しした後に、深く腰を折りました。



「ほとんど、人間に見えるんですね?」



 美兎さんは、沙羅ちゃんの頭を撫でながら不思議そうにされていました。



「あやかし内でも、ケサランパサランは未知の存在だと言われていますから。柊司さん、彼女は何故あのように?」


「えっ……と、一時的に入れようとしていたコーヒー豆の瓶の中で、豆のカスを食べてしまって」


「それで、主人の『気』も取り込んで人間に近い形態に…………食事の方は?」


「最近食べられるようになったのは……小豆のみです。他はほとんど、ブラックコーヒーかその豆カスなんですよ」


「ふぅむ」



 与えているものは、食事としては異質であるのに……響、いいえ、火坑さんはちっとも馬鹿にすることも何もなく、真剣に考えてくださいました。


 猫の頭でも、美猫と言えるくらい……かっこいいんですよね?


 妖怪さんって、やはり皆さんレベルは違えど美形なのでしょうか?



「店長さん! 沙羅ちゃん、抱っこしても大丈夫ですか!」



 僕らが話し合っていると、沙羅ちゃんを相手してくださっている美兎さんが、僕に質問してきました。



「え、ええ。嫌がってなければ」


「ありがとうございます! 沙羅ちゃ〜ん? 抱っこいーい?」


「あう!」



 美兎さんが沙羅ちゃんにきちんと聞いてから抱っこしていただくと……本当の母娘のように見えたので、微笑ましかったです。

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