第2話『食べ応えある太鼓焼き』

 それから、約三十分後に……賢也けんや君が僕達の家に来てくださいました。



「よぉ〜」



 賢也君は何か手土産を持って来てくださいましたよ?


 ビニール袋に……何かを包んだような柔らかい紙の塊。



「こんにちは、賢也君。……これは?」


「あんこ平気になったんなら……ビルん中に売ってたやろ? 『太鼓焼き』や。太鼓焼き」


「たいこやき?」


「俺らんやと、大判焼きとか御座候ござそうろうやで」


「ああ!」



 たい焼きとも違いますが、ホットケーキミックスのようなふんわり甘くて優しい味の生地の中に……これもお店によりますが、ぎっしりとあんこやカスタードが入ったおやつです。


 たしか……僕らのお店があるビル内に、小さなお茶屋さんがありました。あまり頻繁に行けていませんが……あそこでは持ち帰り用にお安くこのお菓子が売られていましたね。



「生地は無理かと思ったけど、昨日あのエルフぽい姉ちゃんとこで菓子食えたやろ? せやから、全く無理やないだろうと思ってな?」


「せっかくだし、軽く温めますか?」



 僕らも食べることになり、トースターで一個ずつ温めることに。


 愛知では、焼印がありませんでしたが……こちらは『太鼓焼き』と言うだけあって、和太鼓のあの勾玉を使った模様がきちんとありました。


 焦げすぎないように、様子を見つつ……軽く表面がカリッとしたら出来上がり。


 沙羅ちゃん用には、ペティナイフで細かく切り分けて、沙羅ちゃんが掴みやすいように。僕らはほうじ茶を淹れてひとつずつ食べます。



「「いただきます」」


「あーうー!」



 僕はまず、沙羅ちゃんに出来るだけあんこが多い箇所を渡すと……彼女が食べるかどうかを賢也君と見守りました。


 沙羅ちゃんは握った太鼓焼きのかけらをじーっと見つめていましたが、やがて、パクッと口に入れてくださいましたよ!?


 赤飯のもち米でも大丈夫だったように、小麦も克服(?)してくださったようです!!



「お? ほんまに食えとるやん?」


「僕は……僕は嬉しいです!」


「オカンか!? いや……ほとんどオトンやけど」


「沙羅ちゃん、もっとたくさん食べていいですよー?」


「あう!」



 僕が許可を出すと、沙羅ちゃんは両手を使ってぱくぱくとたくさん食べてくださいました。


 僕と賢也君も自分のを食べましたが、普通のたい焼きに比べて……生地もですが、あんこも絶品でした。これはリピート必須間違い無しです。



「っかし、えらいぎょーさん作ったなあ?」


「つい、張り切ってしまって……」



 まだ沙羅ちゃんに食べてもらっていないものもありますが……冷蔵庫に水羊羹もあるのを伝えると、さらに『作り過ぎや』と呆れられてしまいました。



「ま。柊司しゅうじが元気ならええで」


「……ありがとうございます」



 まだ、時々病院には行かなくてはいけませんが……賢也君もですけど、沙羅ちゃんのお陰で僕は本当に元気です。

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