第4話 柊司のために②

 柊司しゅうじのオムハヤシセットで体も心も満たされたら……俺はノーパソを取り出して、カウンターの上で自分の仕事をしていく。


 機材は足りない方やけど、これだけでも手軽に出来る株の投資とかや。ちっこい店やからって、仕入れ云々に金と時間はどうしたってかかる。


 せやから、普通の社会人やった時に……がむしゃらにでも身につけたノウハウを活かし、柊司にちょっとでも働きやすい環境を提供したいんや!!


 まだ完璧やないけど……鬱は再発が多いとされている病気。軽度だったからって、実際に目の前でエスプレッソマシンの手入れしとる呑気な古馴染みの心は思った以上に繊細。


 ねーちゃんの事件があったせいで、成人したからって天涯孤独の身となった……。やかましさは俺の姉貴の活力分けてやりたいが、姉貴は国際結婚して国外におるから頻繁には会えん。



(……とにかく、今日の株価は)



 ぼちぼち、まずまず。


 一気に儲けるよりも……地道に確実に金が入るようにしたいから欲張りはよっぽどしないようにしている。長野に来たのは、柊司の静養にはちょうどええかと思ったのが一番の理由。あと、水がめちゃんこ綺麗。


 ただ、市外地やと客足が限られてくるから……標高は高いが登山客も確保したいと思い、駅に近い小さなビルの半地下を選んだ。立地としては、あんまりよくないが……あくせく働かせないようにするための、俺なりの気配りや。


 ぶっちゃけ、ひとりで切り盛り出来る店は……こじんまりしていてええ。


 実際は、柊司の人柄と人並み以上のコーヒーとかの腕前で、当初予定していた以上の売り上げは出ていたが。


 沙羅さらも増えたことで、店も明るくなってる。俺も……ちょぉ、自然に笑顔になってきてると思うわ。


 なら、次は……と、店の経営がどこまで良くなるかって言うオーナーとしての、俺の手腕がうなるわぁああ!!



「やーやー? 難しい仕事してるね?」


「どぉわ!?」



 画面と睨めっこしてたら、相変わらず神出鬼没の自称座敷童子の妖怪坊主が出てきよった。



「はは。賢也けんや君は相変わらず面白いねー?」



 和装の中学生って、外見だけ見ると不釣り合いな格好やけど……沙羅がでかくなった初日に見せられたもんは、こいつが人間じゃないのはよーくわかった。だからこそ、余計に胡散臭い思うねん!!



「毎回俺をおどかしておもろいんか!?」


「うん、面白い」


「…………」



 妖怪の考えていることはよくわからんわ。


 柊司の方は笑顔で颯太ふうたに挨拶してから、まだ試作段階のアフォガートをすぐに差し出した……。


 柊司、相変わらず懐に受け入れたら、甘やかすのはどないやねん!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る