第2話 オレの日常

 

 長期休み明けは、午前中に学校が終わる。 給食がないから、昼くらいに下校。

専門学校がまだ長期休み中の菜乃香なのかも一緒にご飯を食べるって言ってた。



「なぁなぁ、今日メシ食ったら遊ばねぇ? お年玉で新しいゲーム買いに行きたい。」

クラスメイトの黒沢直人くろさわなおとが、校門を出た所で声をかけてきた。

「ん~…一回家に帰ったら、出たくなくなりそう。 姉貴も帰ってくるし。」と、オレは答えた。


 陽菜ひな菜乃佳なのかと一緒にご飯を食べる時は大体、その後リビングでおやつタイムになる。 甘味を持ってくるから。 食べながら近況報告をする。

今日もまだ彼氏できてない日数を更新してるか気になるから、出かけたくなかった。


「あぁ、近所に住んでるっていう姉さん? 俺会った事ねえや。」

だろうな、会う必要もないだろ。

「な~、じゃあお前ん家遊び行っていい?」

「…なんで?」

「ヒマだし。 姉さん来るなら見てみたい。」

人懐っこそうな顔でにかっと笑うと八重歯が見える。

実はこいつクラスの女子に人気あるんだよな、どうでもいいけど。


 断ろうと口を開きかけた時、

「はやて?」

と、心臓が反応する声がした。


 振り返ると、案の定手土産を持った菜乃佳なのかがいた。

「おかえり。 お友達?」

と黒沢を見る。

オレが答える前に黒沢が「そおっすっ」とうなずく。

違うって言ってやろうかと思ったが…まぁいいか。



「はじめまして、姉の菜乃香なのかです。これからも仲良くしてやってね。」

ニコっと笑いながら、保護者の顔で言う。 なんか恥ずかしいから、やめてくれ。

方向が一緒(オレと菜乃香なのかは、もくてきちが同じだから当たり前だが)だから、3人で歩き出す。


「じゃあ、今年から同じクラスなんだ。」

「そおっす。 でも有名だったから、同じクラスになる前から俺は知ってました。」

「え? 有名なの? はやてが?」

あ、いやな話の流れ…。

「だって…。」

菜乃香なのか、今財布持ってる?」

黒沢の声に被せるように、話しかける。

「持ってるけど…なに?」

「母さんが昨日麵つゆが無くなったって言ってたから。 帰る前に買ってってあげようよ。」

「あぁ、そうなんだ。 じゃあ寄って行こうか。」


 道々の個人商店に菜乃香なのかが入って行く。

大通りのスーパーの方が品揃えが良いけど、簡単なものならいつもここで済ませる。

だから昔からの馴染みのお店。 レジ横で座りながらテレビを見てたおばちゃんと菜乃香なのかがいつもの様に、挨拶がてら話を始めた。

その様子を確認してから、黒沢に向き直る。

「あんま学校の事とか言うな。」

目を丸くしながら「なんで?」と黒沢が言う。

「嫌だから。」

「だからなんで? 俺、そんな変な事言おうとしてない。 副委員長やってるとか女子にも結構人気って言おうとしただけだ。」

「それが嫌なのっ」

今まで隠してたんだ、そういう事は。

うちの家族は面白おかしくイジるに決まってんだ。

納得できない顔で、変なの、と言いながらも約束してくれた。

思った事がすぐ口から出ちゃうけど、なんだかんだ良いやつだな。



 結局、黒沢は遊びに来ることになった。

それどころか昼飯まで一緒に食べる事になった、なぜ。


 というわけで、オレの横で昨日の鍋のリメイクうどんをすすりつつ、家族と話してる黒沢がいる。

「じゃあ、二人兄弟なんだ。」

「そぉっす。 兄なんで、俺もはやてと同じ末っ子なんです。」

いつから名前呼びになったんだ、今まで苗字で呼んでたのに…いいけど。

(後から「だって家族みんな同じ苗字じゃん。」と当たり前の様に言われた。 意外とちゃんとした理由でびっくりした。)

「前から面白そうと思ってたんスけど、仲良くなったらやっぱり面白いっす。」

「前から?」

母が拾ってほしくない一言を拾う。

黒沢が、あ…。とこちらを見る、家族にわからない様に黒沢をじろっと見た。

「…4月から。 …同じクラスになったんで。」

目ではこちらを見ながら、これで平気…? と言いたげに、黒沢が誤魔化した。


「でも、はやてのお友達が来たの初めてじゃない?」

菜乃香なのかが言う。 

「そうだっけ?」なんて返しながら、うどんをすする。 話が変わって良かった。

どうでもいいけど、やっぱり鍋リメイクのうどんは、出汁も旨味も格別で最高だな。




 その後はやっぱり、菜乃香なのかが持って来た甘味(今日は饅頭。)をデザートにしようと、家族はリビングに向かった。

オレは、これ以上口を滑らされたら困ると思い、皿を下げて、早々に黒沢と部屋へ上がった。


「へー、ここがはやての部屋か。」

「正確には、母親との部屋。」

母親は寝てるだけで、ほぼオレの物が置いてあるからオレの部屋って言っても良いんだけど。

でも、オレの部屋だと色々詮索されそうで、あえてそう言った。


 ふーん、なんて言いながら、黒沢は興味あるのかないのか、分からない目線でオレの机の上のゲームやら、隣の本棚やらを見ている。

「姉さんて近くに住んでんだよね。 なんで?」

オレの部屋にいて、興味持つとこ、そこ?

「…学校に通いやすいからって。 一番上の姉貴と住んでる。」

「なんの学校?」

「専門学校って言ってた。」

「何の専門?」

「…知らない。」

ホントに知らないから、そう言った。

「家族なのに知らないの? なんで?」

教えてくれないから、とは、なんとなく言えなかった。

適当にごまかして、その後はゲームやら漫画やら見てたら、いつもの様に船の汽笛の音が帰る時間を教える。

黒沢と共に、見送る為に玄関に向かうと、リビングの家族も気づいて出てきてくれた。

また来てね、なんて言われて「じゃあ明日また来ますっ」なんて調子良く黒沢が返してる。


 ホント、笑うと八重歯が良く見えるな、こいつ。

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