第3話 俺のおはなしー黒澤直人の場合ー

 俺、黒沢直人くろさわなおと

あんまり細かい事を気にしない性格で、竹を割ったような、なんてよく言われる。

でも思った事をそのまま言っちゃうから、誤解されたり、気付かないうちに傷つけちゃってたりして、家族にも時々怒られる。


 家族は、父ちゃんと母ちゃん、兄ちゃんが1人。

父ちゃんは漁師。 名前はげん。 1年の半分以上海の上にいてなかなか会えない。

母ちゃんは主婦。 名前は千絵ちえ。 パートしながら父不在の家を守ってる。

兄ちゃんは5歳上の高校1年生。 名はひびき。 デート代欲しさに、駅前の大通りのカフェで学校帰りにバイトを始めた。


 今回は、そんな俺のおはなし。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「今日はありがとうございました~。 では失礼いたしますぅ~。」


 よそ行きの声の母ちゃんが受話器を置く。


 パートから帰ってきて、昼用に作ってくれてたおにぎりと味噌汁がまだあったから、友達の家で食べたと言ったらお礼の電話をしなきゃ、となって今に至る。


ひびきはまだバイト?」

「そうじゃん。」

 ソファーでゲームしながら、顔は画面を見たままで返事をした。


「今日お伺いした長谷川はやてくん?って、どんな子なの?」

夕食の準備の為、冷蔵庫を開けながら母ちゃんが言う。


「どんなって…。」



 ◇◇◇




 最初のきっかけはなんだったか…。




 そうだ、委員会の日だ。


 委員会が終わって教室に向かってたら、他の委員会だったが廊下にいた。

1人で立って、夕方になりかけの空を窓から見てたんだ。

空を見てるはずなのに、何も見てないようなはやてから、目が離せなくなった。

俺に気付いたはやてに「黒沢くん。なに?」って言われて我に返った。

っていうか、名前知ってた事にもびっくりしたんだけど。

その時は、見とれてたなんて言えなくて適当にごまかした。



 はやては前から知ってた、別のクラスでもよく話に出てくる名前だったから。

運動も勉強も上の中で、不愛想だけど実はやさしいって、係りの荷物を持ってもらった女子がしゃべってた。

特定の友達はいないっぽいけど、誰かと一緒にいるのを見る事が多い。

俺としてはクラスも違って接点なかったし、そんなやつがいるのかってだけの話だった。


 でもそれ以来、気になった。

よく見てみると誰かと話してても廊下にいた時と同じ顔してたんだ。

見てるけど見てない、笑ってるけど笑ってない、みたいな。


 益々興味がそそられた。

だから、進級で同じクラスになった時は嬉しかったんだ。


 話しかけたり、毎朝あいさつしてみたりした。

でも返事はしてくれるけど、それだけ。

まるでわざと仲良くならない様にしてるみたいだ。

だから強行突破してやろうと思って、機会をうかがってた。


 そして進級して間もなくの、テストが返された日。

珍しく良くできた日で、苦手な国語で自己最高得点だった。

みんなはどれくらいの点数だったのか気になって、隣と前のテストを盗み見た。

すると、斜め前に見えた数字が同じで「あっ78点っ!」と、指を差しながら叫んだ。

 いつもすましたような顔のはやてが、テストを持ったまま上目遣いで俺を睨んできた。


 後で聞いたら、はやてにとっては自己最低点数だったらしい。

 自分との差にショックを受けながらも、悪かった点数を声高々に発表されて不機嫌になったのかと納得した。


 俺にとっては結果オーライ。作戦勝ちだ。 作戦じゃなかったけど(笑)

 それ以来、「どうでもいい奴」から「鬱陶しい奴」になった。


 え?悪くなった?


 いやいや、なんかのドラマで言ってたでしょ?

「スキの反対は嫌いじゃなくて、どうでもいい。」だって。


 だから一歩前進だよ。



 それからというもの、今まで通りの朝のあいさつから始まって、休み時間から放課後まで、そばに行って話しかけまくった。

 そしたら、いつからか、立派に「鬱陶しい奴」から「いないと寂しい奴」にまで昇格した。


 だってしばらくしたら、話してる時


「まぁいいけど。」って言いながらね。





 ◇◇◇




直人なおと?」




 あ、やべ。

 はやてとの事思い出して、とんでた。



「はやて? はやては……………すげーオモシロくて良い奴だよ。」


 振り向きながら笑顔で言うと、つられたのか母ちゃんも笑顔になって「そうなの。」と言った。



 良いお友達ができて良かったわって。


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