第11話 プレイヤー1 「死にゲー」のなまけん

 ◎四月八日(金)午後六時ちょうど タイムリミットまで54:00:00


 一言で国内屈指のゲーマーを集めるとうそぶいても、本音を言えばボクは不安であった。


 本当に皆が集まってくれるのか分からない。集まってくれたとしても、計画に皆が賛同してくれなくては元も子もない。


 ——真実をひた隠しにしているんだ。有りもしない効能をうたい文句に、健康食品を売りさばいているような気がしてボクは心が痛んだ。


 そんなことを考えながら、ボクと樟葉クンは社に戻った。

 午後六時に本社第一会議室に集まるように号令を掛けていた。

 ボクは恐る恐るドアを開ける。


 窓から黄金色の夕陽が射し込んできて、あまりの眩しさに思わず目を細めた。

 光の先には映像コネクタが垂らされており、教卓の陰になっているがゲームのハード機が設置されている。


 そして自社で手掛けたゲームソフトの巨大なポスターが、壁のいたる所で威嚇的に掲げられていた。いつもの見慣れた風景だ。


 部屋の真ん中を仕切るように長方形の机がひとつと、ひじ掛け椅子が八脚ばかり用意されている。椅子は全て人と荷物で埋まっていた。急に嬉しくなった。


「え~と、皆さん。本日は急な呼び出しに集まっていただき、ありがとうございます。ボクが株式会社【セントラルスフィア】の取締執行役員の藤森です。どうぞよろしく」


 教卓の前に立ち、ボクは深々と頭を下げた。


「今日お集りいただいた趣旨をご説明する前に、ボクは皆さんのことをあまり知りません。ですからまずは皆さんの自己紹介を――」


「ヨッ、藤P(ふじぴー)待ってました!」


 話の途中で拍手をしながら囃し立てる者がいた。

 藤Pとは藤森プロデューサーの意味らしい。世間でボクはそう呼ばれているようだ。


「元気がいいねえ。藤Pと呼んでくれるということは【ドラゴンファンタジアオンライン】のユーザーかな?」


 椅子の上で土足のまま胡坐をかいている男がいた。


 金色に染め上げた髪の毛は逆立ち、それはライオンの鬣を思い起こさせた。服はパンクロック風で黒のレザージャケットにレザーパンツ。そして底の厚いブーツを履いている。鼻にピアスを埋め込んだその装いは売れないストリートミュージシャンそのものだ。


 ここに集まることを許していなければ、ボクとは疎遠な関係でいただろう。


「ではキミから自己紹介をお願いしてもいいかな?」


「なんだよ、俺様を知らねえのかよ。なまけんだよ、な・ま・け・ん」


 ボクは苛立たしい口調で、傍らに控えていた樟葉クンに小声で訊いた。


「誰だ、あのハチャメチャなヤツは?」


「【ダークリング】や【覇王】など、俗に言う【死にゲー】と呼ばれるジャンルで、ノーミスクリアの圧倒的回数を誇るゲーマーですよ。というか、ご自身で彼を呼んだのでしょ?」


「知らん。ゲーマーのチョイスは部下に任せた。どうでもいいがアイツ、生意気だな。張り倒して構わないか?」


「ダメです」


 樟葉クンが首を振った。「ここはグッと堪えないと」


 彼の助言に渋々従い、ボクは作り笑顔でこう答えた。


「あ、ああ、すまない。腕の立つゲーマーの間でキミの名前を知らない者などいないな」


「だろ? せっかくここまで足を運んでやったんだぜ。感謝してくれよな。で、今日は何するんだよ藤P?」


 樟葉クンがボクの肩にそっと手を置いた。我慢しろと言いたいのだろう。

 ボクは下唇をきつく噛みしめて、彼の名前をメモに取った。言動はともかく攻略メンバーとしては申し分ない経歴だ。


 プレイヤー1

【ハンドルネーム】なまけん 【年齢】若い

【得意ジャンル】死にゲーなどアクションRPG

【特徴】パンクロッカー 生意気発言 バカっぽい

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