第9話 採掘(マイニング)ゲーム
「要約すると、使命を帯びた勇者が悪の大魔王を倒して
ボクと樟葉クンは興奮しながら互いの目を見て同時にこう叫んだ。「ゲームだ!」
それまで堅物だと思っていた芝刑事が少し笑ったような気がした。
「では樟葉さん、ご協力願えますか?」
「もちろんですとも。人の命が掛かっているんだ。ゲームの攻略くらいいくらでも協力させてもらいますよ。それでその、期限はいつまでに?」
芝刑事は少し間を持たせた後、こう答えた。
「——今日を含め三日間。正確には二日後の深夜零時までです」
「え、今何と? 三日、三日間ですって?」
頭をくしゃくしゃと掻き乱すと、樟葉クンはドンと椅子に腰を下ろした。そして、壁に掛けてある時計をチラリと見た。
「既に半日が経過している。無理だ」
「それでは日数が足りませんか?」
芝刑事が眉間に皺を寄せて訊ねた。
「いえ、ビットコインなら、一〇分から三〇分もあれば
「逆に三日間では長すぎると?」
「そうとは言っていません。攻略に掛かる時間はまちまちです。ねえ藤森さん、三億円分の
ボクは目玉をスイっと右上に動かしたのち、
「少なく見積もっても十二時間だろうねえ」と答えた。
町田刑事の表情がにわかに明るくなった。
「幸いです。半日でしたら、支払い期限に十分間に合います」
ところが町田刑事の言葉に樟葉クンは大きく首を振った。
「どちらにしても無理だ。世界中のコンピューターや人と競うことになるんだ。それに加えてグラフィックボード、マザーボード、GPU、CPU、SSD、電力……そうだCPUを冷却する装置も必要となる。家庭用のチープな物じゃない。どれも最高級のスペックを持つ機材をです。いや、それらが手に入ったとしても
彼は早口で捲し立てると、見ていて可哀そうになるくらいの大きなため息を吐いた。
そんな彼を尻目に、ボクは人差し指で机の表面をコンコンと叩いた。
「確かにその通りだ。しかし、
ボクの言葉に彼がゆっくりと顔を上げた。
「え、何ですって?」
「今キミがいるココはこれでも国内有数のゲーム制作会社だ。マシンスペックを含め何の不自由も無い環境がこの建物内部にはある。自由に使ってくれて結構だ。そして肝心のゲーム攻略に関しては——」
鼻を大きく膨らませて、ボクは高らかに宣言した。
「国内屈指のゲームプレイヤーたちを集める」
室内が静まり返り、送風機の音だけがゴーっと鳴っているのが聞こえてきた。
樟葉クンが自分に言い聞かせるように何度も首肯すると、静かに口を開いた。
「私に用意できるものはありませんか? 奇跡や幸運以外に」
ボクはニヤリと笑って、
「この業界で腕の立つプレイヤーをピックアップし既に手配済みだ。今から六時間以内にはココに集まるだろう。樟葉クン、キミには彼らをまとめるリーダーを務めてもらいたい。ただ、肝心の格闘ゲームの
「ひとりだけ心当たりがあります。コンシューマ機の不慣れなコントローラーながら、かの有名なカイバラを倒した少女と面識があります。先のイベントで立ち去ろうとしたところを呼び止め、彼女の居場所も連絡先も調査済みです。呼べば六時間以内にはこちらに到着できるかと」
「その言葉、大いに感謝する」
ボクは樟葉クンの方に向き直ると、彼の両手を握りしめた。
「お喜びのところ申し訳ないが」
ボクたちの会話に、芝刑事が割って入ってきた。
「この度の事件は既に行方不明事件から未成年略取・身代金誘拐事件に切り替えられ、マスメディアとの間に報道協定が敷かれています。よって今回の件、人質救出を最優先に考えた上、他言無用でお願いしたい」
陰鬱な声だったが、芝刑事の言うことはもっともであった。
「わかりました。少年ひとりの命が掛かっている。その点に関しては十分に留意します」
「ではよろしくお願いします」
芝刑事と樟葉クンが立ち上がり、固い握手を交わした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます