第7話 警視庁からやってきた刑事
そこは会議室だ。テーブルと椅子が置いてあるだけの殺風景な部屋だ。晴れていれば絶景が楽しめるが、この曇天では向かいのビルを眺めるのも一苦労だ。その会議室
でふたりの人間を待たせていた。初老の男と妙齢の女性だ。
「警視庁から来られた刑事さんたちだ」
ボクから紹介を受けた内のひとり、男の方が半歩前に出た。
顎が茄子のようにしゃくれていて、頭髪を整髪料で固めてオールバックにしている。
ボクよりも随分年上なのだが眼光は鋭く、刑事として凄みがありすぎてドラマに出てくる俳優のように思えた。
「初めまして、警視庁捜査一課の
芝刑事は背広の内ポケットから名刺を一枚取り出し、樟葉クンの前に差し出す。
「あ、これはどうも」
刑事と聞いて彼も困惑している様子だった。しかし、そこはビジネスマンだ。表情を元に戻すと彼もまた背広の内側をまさぐった。しかしお目当てのモノは見つからなかったらしく、
「スイマセン、社に忘れてきました」と、彼は頭を下げた。
「構いませんよ」
「でも、刑事さんて、警察手帳というかバッジを見せるのが当たり前だと思っていましたが、名刺を渡すこともあるんですね?」
「刑事ドラマの印象が強すぎて皆さんそうおっしゃられます。平素は名刺で十分かと存じます」
間髪入れず、後ろに控えていた女性の刑事が樟葉クンの前に進み出た。確か名前は……。
「初めまして樟葉氏。わたくしは警視庁捜査一課の刑事、
そうだ、町田刑事だ。
歳の頃は二十代の後半と予想。灰色のレディーススーツにタイトスカート、黒のストッキングを履いている。電灯の光が市松人形のようなしっとりとした黒髪によく映え、彼女の佇まいに色気を与えている。そして昆虫の脚のようなフレームの眼鏡を掛けているその身形から、なんだか社長秘書を思わせた。
「この度はご足労をお掛けして申し訳ありません」
ウグイス嬢のような透き通った美声が印象的な町田刑事が深々と頭を下げる。
「藤森さん……これって?」
「驚かして済まない。だがこれには少しばかり事情があってね。まあ立ち話も何だし、みんな座ろうじゃないか。それに喉も乾いただろう?」
三人へ席に着くことを促すと、内線電話で庶務課にお茶の給仕をお願いした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます