グリーグ、君を愛す
今日は朝から○○さんと出掛ける用事があったので早々に早く着くように準備をしてきた。緊張と嬉しさで体が打ち震えそうだ。口角が上がるのを頑張って押さえる。今日はクラシックコンサートに行く予定だ。最高の思い出になるように、努めたい。彼は今までどんな人と、どんな曲をどんな想いで聴いて来たのかは分からないが、今日は楽しんで貰えたら嬉しい。
『ごめんごめん、待ったかな?』
遠くから手を振り小走りで走ってくる○○さん。可愛い....いつもはキリッとしていて堅実そうに見えるのに、笑うと眉毛が下がるところとか.....。
『いえ、俺もさっき着きました。今日はありがとうございます。○○さんとずっとこのコンサートに来たかったんです』
『いやあ、それにしてもグリーグを聴くだなんて以外だったよ。これは可愛らしい女性と行った方が良かったんじゃないかい?』
....そうだ、グリーグ (Edvard Grieg,1843-1907) が作曲したこの歌曲は、原題 は「Jeg elsker Dig」 といい一般的にはドイツ語で歌われることが多いクラシック。
「 私は君を愛す、これまでも、 そして、これからもずっと」という情熱的な歌詞のこの曲は、グリーグが婚約者に捧げた曲だと言われてる。○○さんもきっとこの意味を知っているんだろう。
『俺は、○○さんと一緒に来たかったので.....あ、ほら、そろそろ時間です。行きましょう』
コンサート会場に入る。
席は指定されており、人は少なかった。今どきクラシックのコンサートにくる人間は少ないのかもしれない。
『いい席だね、演奏が1番心地よく聴こえてくる席だ.....』
そうだ、音が心地よくかつクレッシェンドやピアニッシモ、フォルティッシモなどが分かりやすい真ん中の席を選んだ。
『○○さんも、もし一緒に行くならこの席を選ぶと思ったので......楽しみですね』
『あぁ、そうだね。』
深く色っぽい声をしているのは自覚がないのだろうか。演奏者が揃い始めついに始まった。
『.......』
熱い視線、少しガサツいてはいるがゴツゴツとした男性らしい手。何をとっても俺を欲情させる。歌い手の深いテノールボイス越しに見つめる○○さん。
『....?』
ふと目があった。
え、_____
『ふふふ、演奏じゃなくて僕を見てるなんて、○○君も中々やるね...?でもせっかくのコンサートだから一緒に聴こう』
『あ、....はいっ、』
赤面する、席が暗くて本当に良かった......。そのままコンサートは無事に終わった。俺の心は全く無事ではなかったが。
『ふぅ、凄かったね。やっぱり音源で聞くのとではかってが違うよ....それにしても、グリーグはよくあんなに愛情深い歌を歌詞にできたものだよ。はは、僕は結婚してないから何だか聴いてるのが少し恥ずかしかったよ....』
『........』
『○○くん?』
『次も一緒に行きましょう。またグリーグを○○さんと聴きたい、これからもずっと』
風の音がうるさい。○○さんは少し驚いた顔を一瞬して、
『あぁ、もちろんだよ。僕もグリーグは嫌いじゃあないからね。それに他にもクラシックは沢山あるし、また行こうね。○○君はいいクラシック仲間だよ』
ナカマ
ナカマ
ナカマ
『はい、コンサート以外でも呼んでください。アレクの顔も見たいですから。...元気にしてますか??』
『ああ、最近は餌を食べすぎてしまっていて__________』
会話が耳に入ってこない。
『○○くん、○○くん??大丈夫??』
『.........』
『うおっ、どうしたのかな?!』
気づくと俺は○○さんを抱きしめていた。
○○さんが悪いんだ。俺を、それ以上に見てくれない。
『......』
『...お母様とまた何かあったのかな』
優しく頭を撫でられる。
『ごめんない』
『謝らなくていいんだよ。早速で良ければアレクの散歩でも行くかい?アレクもきっと○○くんに会いたがってるよ』
『行きます 』
あなたのところへだったら、どこへでも。
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