第?話 Case【Roland】

 イズミがゲートの影響でまだ眠りについている頃。

 睦月邸のリビングでローラントと瑞毅、そして燦斗の3人が揃っていた。


 中央諸島でローラントと出会った際、彼は情報を持っていると証言していた。そのため彼が洗脳から開放され現在に至るまでに集めた情報を全て燦斗に渡しておきたいということで、このように集まりを作っておいたのだ。



「まあ、まずはすんません。オルドヌングはゲラルトとヴィオ君以外は全員、フェルゼンの手中にハマってしまってます。それはヴィオ君からも聞いたかと」


「ええ、一応報告は受けています。……というか、《精霊猫ガイストカッツェ》を持つヴィオットさんはわかるのですが、ゲラルトさんは何故?」


「ああ、アイツ長期任務行ってくる言うて帰ってきてないんですよ。何処に行ったかまでは聞いてなくて」


「ふむ……では彼にはエミーリア、及びエルドレット司令官から直接連絡を入れておきましょう。あちらに合流されると、彼は諸々厄介なのでね」


「ありがとうございます。まあ、アイツは気まぐれなやつなんで帰ってくるかも怪しいですけど」



 小さくお辞儀をした後、ローラントは改めてレティシエルの現状についての情報、諜報機関オルドヌングの現在を語り始めた。


 レティシエルの方に関しては干渉系のコントラ・ソールを用いて彼の権能である魔力調整を止めたのが原因なのだそうで、これに関してはガルムレイに戻った時点で自動的に戻る。

 ただし戻ったからと言ってもまた止められる可能性も高く、根本的な解決方法は同じ干渉系のコントラ・ソールを用いて外因を排除する必要があるそうだ。


 そしてオルドヌングのメンバーは現在、ゲラルトとヴィオット以外のメンバーはフェルゼンの持つコントラ・ソールによって洗脳状態となっている。これはアルムと会話する事で自然と解除されるが、その仕組みはまだ解明されていない。

 ローラントもまた、アルムと会話していたそうだが、オルドヌングの休憩所で休んでいた時から彼女と会話する前までの記憶が一切抜け落ちていることから、手掛かりになることは少ないそうだ。



「となれば、一度彼をセクレト機関に連れて行ったほうが良さそうですね。……それにしても干渉系の能力まで持っているのか、フェルゼンは」


「いや、そうとも言い切れないと思いますよ。以前サライが言ってた、コピー系の能力を使った可能性もあるかと」


「そういや、確かに数週間前までは特に干渉系は持ってなかったような気ぃするなぁ。瑞毅君の言う通りかも」


「ふーむ……ローラントさん、フェルゼンのこれまで使ったコントラ・ソールについて、覚えてる限りでいいので書き出してもらっても?」


「はいはい、ええですよ。って言っても名称まできちんと覚えてないんで、中身だけのも出ますけど」



 メモとペンを借り、つらつらとフェルゼン・ガグ・ヴェレットが使ったコントラ・ソールの名称や能力効果を書き出すローラント。洗脳が解けて以降のみの抽出となったが、それでも彼が書き出した数は10を超えていた。


 本来、コントラ・ソールの所持は1人の人間に付き最大でも5個までが限度。そもそもコントラ・ソール自体が人体能力の延長線上で出来ているため、それ以上の所持はむしろ人体に悪影響となる。

 そのため、フェルゼンの使用したコントラ・ソールの数は人のそれを超える。元々死なないコントラ・ソールを持つ燦斗やエーミールならば許容量を超えて持てるが、生身の人間であるフェルゼンがこれだけ所持しているというのは考えにくい。



「多いですねぇ……。やはりコピー系を持っていると見て間違いないでしょう」


「ですよねー。でもそうなると、どうやって干渉系を手に入れたん?? って話になりそうなんですけど」


「まあ、奴は元々研究者でもありますから、父に会おうと思えば会えたんですよね。そのときにコピーをした可能性もあるっちゃありますが、でも流石に父はそれに気づくと思うんですよねぇ……」



 調査の末にコピー関連のコントラ・ソールがあるのは確認されているが、全て限定条件下において発動するものばかり。例え他者のコントラ・ソールをコピーするにしても何らかの制限が引っかかり、奪われたことを悟られないままにコピーは難しいのではないかと燦斗は疑問を呈する。

 では、逆に同意を得た上で干渉系をコピーした可能性はないのか。瑞毅はその疑問をローラントに向けて投げた。



「オルドヌング? ってところのメンバーにはいないのか? そういう干渉系を持ってるやつ」


「おらん……と思うよ? 俺は光を操るのと能力強化で、ゲラルトのは知らん、オスカーもテオもちゃうし、カスパルは干渉系ではあるけど条件付きやし……」


「ロルフさんは指令系、シェルムさんは戦闘系で……コンラートさんも干渉系ではありましたけど……どっちかというと、人の脳に作用するタイプだったはずなので魔力には干渉出来ないはずなんですよね」


「で、メルヒオールさんは創作系だったから違うし、ヴィオットさんも……なんか猫呼んでたし……」


「エミさんは生まれながらに干渉系は持てへん言うてたから、多分無いな。あん人はちょい特殊やから、隠し持ってそうではあるけど」


「隠し持ってたら私が黙っちゃいませんが?」


「それはそう」



 ローラントと燦斗が知る限り、諜報機関オルドヌングのメンバーには所持する人物はおらず、瑞毅の建てた理論は成り立たないことが判明する。そうなってくると、どのように対策を立てればよいのかがわからないため、フェルゼンの話とレティシエルの魔力断絶については一旦これで打ち止めとなった。


 次に上がった話題は、オルドヌングメンバーの現状について。これに関してはヴィオットからも報告が上がっているとおりではあるが、ヴィオットが見ていないところで何が起こっていたかを伝えた。



「アルム王女の移送先については俺には伝えられてないんでわからないんですけど、エミさんとの会話を聞く限りやともうセクレト機関施設内にはおらんみたいです。あと伝えられるのは、最近エミさんの様子が少しおかしかったぐらいかな」


「エーミールの様子が……? まあ、あの子の様子がおかしいのはいつものことなんですけど」


「お兄さんホンマにお兄さんなんか?? まあそれはそれとして、今のエミさんにはエーリッヒさんの言葉は殆ど届かないと思いますよ。いつも、なんかブツブツ言うようになってしまったし」


「……何を言ってたか聞き取れたりは?」


「そうですねぇ……。『半身はもうすぐ』とか『鍵の代わり』とか、そのへんは聞き取れましたけど」


「……鍵……?」



 エーミールの言葉に対し、燦斗は考え込んだ。思いつく限りの未来を予測していたようだが、ふと、あることに気づくと表情を青ざめさせ、その理論が成り立つかどうかを脳内で精査し始める。

 半身、鍵。その言葉だけで思いつく最悪の未来が、彼の目には映っているようだ。しかしそれが実際に訪れる未来かどうかまでは確約が取れず、また回避する方法もふんだんにあることから、本当の危機となった場合に考えようと気持ちを切り替えていた。



「いいんですか、それで」


「今はまだ、ですが。これが回避できないほどの事態へ発展しそうな場合には、流石に手を打ちますよ」


「それって流石に俺らには関係ないです……よね?」


「瑞毅さんは多分大丈夫かなと。一番やばいのはアンダスト王子……ジャック・アルファードですから」


「へっ、なんで??」


「まあ……彼にはいろんな秘密がありますからね。それこそ、本人が知らないような秘密がたくさん、ね」



 何やら意味深に笑みを浮かべた燦斗。その笑みの意味については、瑞毅もローラントもわからぬまま。ただただ、彼だけがイズミのある秘密を握っているようだ。


 しかし、その秘密だけはどうしても、イズミに知られてはならないと彼は言う。

 燦斗の口から言うのは容易いが、それを自分から告げるのは違う。別のふさわしい人物が彼に告げるべきであり、自分はただそれを眺めるだけの観客でいいのだと。



「彼が気づくか、然るべき人物が告げるか。どちらが先なのか、私は楽しみでしょうがなくて」


「あっこれガチめに楽しんどる。瑞毅君、長生きしたらこういう大人になってまうから気をつけような」


「流石に100超えて生きるような人種じゃないんで大丈夫っす」


「うん、それならええわ。この人だいたい悪い見本やからな」


「あるぇー?? 私、悪い見本呼ばわりされるようなことしてないんですけどねぇ?」


「しとるが???」



 つらつら、つらつらとこれまで燦斗が行った任務での悪行を語るローラント。その様子は瑞毅から見ると、まるで今まで溜まった恨み言をぶつけるかのような様子にも見えたと、後に彼は語っていた……。

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