第4話 妨害行為にキレた時
瑞毅からの連絡が入り、事務所まで来て欲しいことを伝えて1時間が経過。ある程度の情報を纏めつつも待っていたのだが、瑞毅が来る様子はなかった。
サライから連絡を入れても彼から返信はなく、ただただ時間だけが過ぎていった。
「……嫌な予感がするな……」
「みずきち、連絡は結構キッチリする方だから返信が遅いってのは珍しいな……」
「…………」
時だけがゆっくりと過ぎていく。我慢の限界になったのか、イズミはその場から立ち上がってすたすたと外へと出向こうと動いたが、瑞毅の顔は写真で見ただけで探しに行くのは無茶だろうか、と考えあぐねていた。
だが、同じように立ち上がったのがフォンテ。人探しならばギルドでよくやっているし、何より1時間も待って連絡が来ないのなら探しに行くべきだという。
「おい、サライと砕牙っつったか。そいつの家はわかるか?」
「あ、ああ。一応」
「案内しろ。ついでに、ジャックと和泉、俺とノエル、サライと砕牙、メガネと黒いのは別れて探すぞ」
二手に分かれるのは、妨害行為を受けているという勘が働くからだとフォンテは言う。アルムを攫ったエーミールやコンラートという人物が次に邪魔をしてくるのならば、イズミの仲間になりそうな瑞毅を言いくるめることになるかもしれないと。
そうなる前に見つける必要があったため、瑞毅の家を知っているサライと砕牙が別れることになり、サライ側にイズミ、ノエル、ヴォルフの3人を、砕牙側に和泉、フォンテ、燦斗の3人を配備して瑞毅を探しに出ることになった。
瑞毅の家は九重市立高校に近いアパート。近隣には小さな公園があったり、コンビニが乱立していたりと何かと人の通りは多い。サライとヴォルフで公園周辺の人から聞き込みをしている間、イズミとノエルの2人は辺りの警戒を続けていた。
というのもノエルは九重市には初めての来訪なため、異世界渡航ルールの1つとして設けられている『3日間はその世界の住民に認識されない』が発動してしまうため、ガルムレイに関わったことのある人物でなければ彼を認識できない。故に、イズミと周囲の警戒を行うことにしたのだ。
「この世界、結構知らないものが多いね?」
「まあ、ガルムレイとは文明が全く違うからな。悪い、お前の目を見れないのはさっきも話したとおりだ」
「わかってる。俺、この世界の人達から見えてないんだよね」
「ああ。……もし、お前と目が合うやつがいたらそいつは怪しいから注意しろ」
「ん」
周囲を注視しながらサライとヴォルフの結果を待つイズミ。何事も起きていない、平和な日常が目の前で並んでいるというのに……自分の不安だけが大きくなって仕方がない。
早いところ瑞毅を見つけてアルムの救出へと向かいたい。そう考え込んだ矢先、ノエルがいきなりイズミの手を引いて身体の向きを無理矢理に変える。
「うおっ!?」
何が起こったのかわからずに困惑したイズミだったが、その直後に彼のいた地点の足元が小さく弾ける。銃弾による一撃がイズミを狙っていたようで、ノエルは間一髪でそれを回避させたということのようだ。
銃弾の距離と角度だけが現在与えられた情報。イズミとノエルはすぐさま物陰に隠れつつ、サライとヴォルフに近づいて敵襲を伝える。その様子には2人共当然驚くのだが、サライよりもヴォルフの方がかなり大きく焦っていた。
というのも、九重市は戦闘行為の許されない平和指定世界。ヴォルフや燦斗が所属する組織の者は一部条件を満たさない限りは一切の戦闘行為は許されておらず、たとえイズミ達を見つけても戦闘行為は不可能なはずだと。
「親父、その条件を外す方法はあるのか?」
「ある。世界の認識を変更させる力を行使すれば、機関の人間でも戦闘行為を行える……が……」
ヴォルフは手で口を覆い、考え込んだ。最高司令官たる人物が特に何も起きていない平和指定世界の認識を変更する理由はないし、エーミール達が変更する力を持っているとは考えられない。
ただ、ヴォルフには最高司令官以外で変更できる人物に心当たりがあるという。しかしその人物は平和指定世界への異世界渡航が不可能な人物なため、九重市の認識を変えるには何かしらの手配が必要になるとのこと。エーミールが絡んでいる場合には、もしかしたら外れるかもしれないが。
「とにかく、今の状況はかなりまずいってことだよね?」
「ジャック君、ノエル君、銃弾の方向はわかるか?」
「角度と距離からして……あのビル群辺りになるか? けど、あんな距離から……」
イズミが指し示した方向には九重市の中央とも呼べる高層ビル群が建立されている。距離的にも狙撃を行うにはかなりの距離があり、相応の腕を持っていないとイズミへの狙撃は無理だ。
だがヴォルフにはその狙撃を完璧に行える人物に心当たりがあると言う。その人物にとっては距離は関係なく、むしろ近づけば近づくほど弱体化を図れると聞いて……
「つーまーり、今から突入すりゃ間に合うってことだな?」
「おい、お前らまさか……」
「サライ君、ヴォルフさんと一緒にいてね。俺たち、ちょっと行ってくるよ」
「マジで言ってんのか!? いや、お前らが戦闘に特化してるのは和泉から聞いてるけど、今はそんなことしなくったって」
「アルムの居場所を吐いてもらうにゃ、今が1番いいってことよ。……ノエル」
「オッケー。じゃ、行ってきまーす」
サライの静止も効かず、イズミとノエルは弾丸の如く飛び出して一気に敵が潜伏しているであろう高層ビルへと近づく。その間にも弾丸は飛び交い2人を狙うが、研ぎ澄まされた意識は銃弾の軌道を瞬時に判断し、紙一重の差で回避する。
ここで、ノエルは気づく。一般人達が皆戦闘行為を行っている自分達を気にすること無く、ただ普通の日常を謳歌していることに。まるで自分達が今透明にでもなっているかのように、人々は街道を歩いていた。
「ジャック君! どうやら、お相手さんの計らいのおかげで全力で行っちゃっていいみたい!」
「っしゃぁ!! ノエル、挟み撃ちするぞ!!」
「りょーかい!!」
左右二手に分かれ、高層ビルの外壁を蹴って登っていく2人。先に到達したイズミはフードを被っている狙撃手である男の背後を取って呼び寄せた2つの剣を突き刺すが、それを取り押さえたのは何処からか伸びた影の剣と、エーミールのグラスナイフ。
イズミは2つの衝撃で吹き飛ばされそうになったが、間一髪で屋上の端を掴んで戻ることに成功。ノエルとも合流を果たし、エーミール、コンラートと……狙撃手の男と対面する。
「はっ、まさかテメェらが護衛とはな。リターンマッチになりそうじゃねぇか!」
「あらら、もしかしてジャック君怒ってはる? アルムちゃんは無事や~って言ってもダメなん?」
「無理でしょうね。彼は支えてくれた人物を失った上に、目の前に敵がいるとなればそれはもう、見境なくなりますから」
「へぇ、言ってくれるじゃん。ジャック君のことを何処まで知ってるかは知らないけど、とりあえずアルム様返してくれない? じゃないと、俺も本気出しちゃうよ」
イズミが武器を出せることに気づいたノエルもまた、得物である槍を呼び寄せてエーミール達と対面する。じわり、じわりと歩を進めて距離を詰める中、狙撃手の男が声を荒げる。――フォンテが来た、と。
フォンテが来る理由など今現在は何処にもないはず。だが、彼は何かを感じ取って救援に来てくれたのだろう、狙撃手の男は彼を撃ち落とそうと何度も何度も狙撃銃を撃っては、失敗する。
その隙にノエルはエーミールを、イズミはコンラートを相手取る。フォンテの接近を邪魔されないよう、お互いの長所を活かした戦法を取って2人の足止めを試みた。
「アカン! エミさん、俺メルさんの手伝いが出来ひん!!」
「私もっ……ちょっと、難しそうです!」
「くかかっ、いい気味だなぁ、オイ! この世界の認識を変えたらしいがこのザマかぁ!?」
「ジャック君、あんまり熱中しないでね! キミとかフォンテみたいな暴走族が戦闘行為に没頭すると必ずトチるんだからさ!」
「わかってらぁ! ここでぶっ飛ばす勢いでいくぞ!」
2つの刃をコンラートに向けて振りかざし、それを闇の刃が弾く。続けざまに別の闇の刃がイズミの身体を貫こうと背後から差し迫るが、間一髪、第六感が働いたことによって身体を捻って回避。紙一重の攻防が繰り返された。
何度も何度も繰り返す内、イズミはコンラートの動きをトレース出来たようで隙を作り出して彼への一撃を繰り出す。胸へと突き刺さるように、片手に握った剣に目一杯力を込める。
だが……その一撃は、いつの間にか現れた透明な壁によって阻まれる。生成されたガラスの盾はイズミの一撃で脆くも崩れ去り、砂のように散って風にのって別の場所へと運ばれていった。
いったい誰がこんな真似をしたのか。それを考える前に、コンラートの方から感謝の言葉が上がった。
「メルさんありがとー! そろそろフォンテ来るから、撤収準備しよか! 彼は会ったらヤバい!!」
「おう、せやな。流石に俺の《
「テメ、逃げる気か!!」
「逃げへん逃げへん! 瑞毅くん……やっけ? あの子をガルムレイに放り込んだ時点で、俺らのほうが勝ちやもんねー!」
「なっ!? おい、ゲートの場所は――」
ゲートの場所をコンラートから聞き出そうとした瞬間、大きな壁がエーミール、コンラート、狙撃手の男の姿を隠すように立ちはだかる。なんらかの能力を使われた壁はイズミとノエルの力を持ってしても砕けることはなく、その場に立ちはだかっていた。
逃げられた。そう思う矢先、フォンテがイズミとノエルと合流。天へと伸びる壁を見上げた彼は、何故か不思議な感覚に囚われているかのような表情を見せた。
「どしたの、フォンテ」
「いや……なんだろう、この壁……俺が使う能力で作ったら、こうなるよな? って思って……」
「……どうなんだろうな。とりあえず、壁を崩してくれ。流石にこれは見つかったらまずい」
「あっと、そうだったな。悪い悪い」
フォンテは持ち前の物質操作の力を使い、目の前に出来た壁を崩す。ザラザラと崩れ落ちる砂はやがて風に乗って飛んでいき、目に見えぬ塵へと消えていった。
あとは高層ビルから降りるだけなのだが、そういえば、とノエルが疑問を呈す。何故フォンテがこのビルへとやってきたのだろうか、と。
「ああ、ほら、メガネがな? 『ちょっとあそこが怪しいので見てきてほしいんですよ。お代は塩豆大福で』って言ってきたもんだからさ」
「フォンテ、塩豆大福に釣られてこっち来たの?? まあ燦斗さんが買ってくれる塩豆大福は美味しいってサライ君も言ってたけどさぁ」
「そんで近づいたら、なんか銃撃受けてるっぽいんで当たりだな~って思ってな。人数的にも3人だったぽいから急いだら、まあこのザマ」
「奴ら、どうにもお前に会うのを避けているという感じだったな。……同じ能力を使うからか、それとも……」
イズミには何か、心に引っかかっていた。コンラートの言っていた言葉、フォンテに出会ったらヤバいという一言。その言葉の真意は今はわからないが、フォンテが彼らに出会うことで何かが起こるのは間違いないと踏んでいるようだ。
しかし今は、瑞毅の安否を確認しなければならない。彼らの言葉が本当ならば、今頃瑞毅は異世界に飛ばされた影響で何が起こっているかもわからない。それどころか、向こうの世界で危険な目にあっている可能性だってある。フォンテとノエルが急ぎ他のメンバーを集める間、イズミがゲートの位置を探った。
「あぁ、クソ! 和泉んとこのゲートの反応がデカすぎて他が探りにくいな!!」
如月探偵事務所のゲートはかなりのエネルギーを使用しているせいか、イズミの探知に毎回引っかかってしまって他のゲートを探りづらい。……というのも、彼の事務所のゲートは特別に開いてもらったものであり、和泉が自由に使えるようにちょっとした細工を込めているとのことで探知にも引っかかりやすくなってしまっている。
そのため、周辺の調査をくまなく行い近場で発生したゲートを確認するイズミ。それでも、小さなゲートの発生数が多かったために瑞毅が連れ攫われたゲートを特定することは出来なかった。
後に彼は他のメンバーと合流。瑞毅が攫われた件については既にフォンテとノエルから聞いているようで、この後をどうするかと手早く対策を考えた。
「和泉の事務所からは行けるのか?」
「行ける。だが、あそこは確か……」
「ロウン……あー、まあ小さな島国にしか繋げられん。そこから探索範囲を広げるとなると、王族権限を使用した外界人捜索を使ったほうが早いな」
「でもジャック君、ロウンからじゃキミの王族権限使えないんじゃない? アルム様もいないし、ロウンからでは難しいかも……」
「それなんだよなぁ……。リアルドさんもアルも、アルムがまたいなくなったってことで俺にキレてんのが目に浮かぶんだよなぁ~……」
「ご愁傷さん。となると、アンダスト行きのゲートを探る必要があるが……」
ぐるりと周囲を見渡したフォンテとノエルも、顔を顰めた。あたりに漂うのは人が通る事ができない極小のゲート。人が通れるほどのゲートを探したとして、その先を見ることが出来ないと特定の国への突入は難しいだろうと思い悩んだ。
どうしたものか。そう思い悩んでいると、大きなため息をついたヴォルフが提案を出してくれた。組織の最高司令官補佐という立場を利用して、彼らを導くつもりのようだ。
「しょうがねェな、今回は俺の家にあるゲートを使わせてやるよ。行きたいところにすぐに行けるやつ」
「は……? なんでアンタが……って、そうか、組織の最高司令官補佐」
「そういうこった。あー、ただ、俺の嫁がちょいうるさいと思うけどそこは我慢しろよ? 言いくるめないと1時間はとっ捕まるぞ」
「母さん、顔のいい男にはマジで目がねェからな……な、砕牙」
「うん……。サライんち遊びに行くと、2時間ぐらいおばさんにとっ捕まる……」
「サライのお袋さんどうなってんの???」
「まあ、アンナさんはヴォルフを顔で選びましたからねぇ……」
徒歩ではあるが、急いで木々水家へと走ったイズミ達。途中で体力不足となってへばってしまった和泉を背負いつつ、走った。
サライの実家は住宅街の一角、隣の家との境界がとても狭い立地に存在する。
2階建ての青い屋根の家は様々な植物に囲まれており、丁度その手入れをするためにサライの母・アンナが外に出ていた。ヴォルフとサライの帰宅に驚いてはいたが、それよりも先に目についたのは……イズミ達という、顔のいい男集団だった。
「あら、あらあらあら! サライ、もしかしてお友達!? やだ、砕牙くんまたイケメンになっちゃって!」
「どうも、おばさん。えーと、今日はちょっと急がなきゃいけない理由があって、今日のお話はまた今度じゃダメかな?」
「えぅ。……ヴォルフぅ」
「悪い、アンナ。今日はメル達の件で向こうに行かなきゃならねェからよ。今日ばかりは勘弁してくれや」
「むー。……じゃあ、しょうがないわねえ。今度うちに来たときには、ええ、たくさんお話しましょうね!」
「ん、約束。じゃあ、お邪魔します」
アンナとの約束を取り付けた一行は室内へお邪魔すると、まっすぐ、ヴォルフの部屋へと向かう。サライでさえ入ることを禁止されていたという部屋の中は……現代世界には似つかわしくない門が作られていた。
燦斗曰く、この門は組織の中でも最高権威者にしか与えられない代物。司令官補佐である彼なら簡単に使用する事は出来るのだが、ここ数年は使っていなかったという。というのも燦斗も同程度の権威を持つため、同じ門が使えるなら自分のは使わなくていいだろうと。
そこで和泉が燦斗の権威がどのぐらいなのかについて尋ねれば……彼はなんと、最高司令官の息子なのだそうだ。その話を聞いてサライと砕牙は驚き、フォンテとノエルは関心を寄せ、和泉は妥当そうだという顔をし、イズミは眉間にシワを作り出して彼を睨みつけていた。
「
「何を言うんですか、王子という身分とほぼ同じでしょうに」
「まあまあ。で、何処に行けばいいんだ?」
「アンダストの……山にある龍の祠なら怪しまれないかもしれん。唯一船を出せる場所に近いしな」
「OK。念の為聞くが、戦闘行為は有りえるか?」
「あー……山の連中は俺が孤児院の人間って知ってるから、大丈夫だと思う。不安なら武器を持たせておいたほうがいいかもな」
「そう言うだろうと思ってこっそり相棒持ってきた」
「如月さん?????」
「お前いつの間に」
和泉の懐から現れたのは、現代でも入手がほぼ不可能と言われている拳銃。どうやら和泉はアルムが攫われたという件から和葉も狙われる可能性とガルムレイに出向く可能性を考え、こっそりと隠し持っていたようだ。その迅速さには燦斗も驚くほど。
そうなるとサライと砕牙の武器をどうするかという話になったのだが、今は急ぎ瑞毅を見つける必要があるため、ガルムレイ側で調達するのが早いということで決着がついた。今はまだ、彼らも武器を持つ心得がないだろうからと。
「サライ、砕牙、覚悟は良いか?」
「何言ってんだ。瑞毅がヤベー時点でとっくの昔に覚悟してらァ」
「サライに同じく。……でもみずきちが攫われたお姫様って、なんかちょっと興奮しない? 俺は新ネタとして使えそうだなと興奮した」
「砕牙、頼むからそういった話題は全部終わってからにしような??」
メモ帳片手に持っていた砕牙をちょっと落ち着かせ、彼らはゲートをくぐってガルムレイへとたどり着く。
――まさか、瑞毅があんなことになっているだなんて誰が予想しただろうか……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます