舞台映えする人だなぁ

「加藤。俺、もう少しここんとこ練習していくからさ。見ててくれよ」

 ため息を着きながら共練から出る時、坂さんの声がして、私はふとそっちを振り向いた。そこには、ぼのさんが楽しそうに坂さんをスポットで照らして、

『舞台映えする人だなぁ』

 そんな坂さんの周りに、奥井君や尾山君、そして千代田さんや天田さんたちも集まっていって、結局また、

「まとめて買った古道具の中の一つだったんですよ。私が知っているのはそれだけです!」

「みーんみんみんみん」

「つくつくぼーし、つくつくぼーし!」

「ま、ママ、落ち着いてよ! 一体どうしちゃったの!?」

 …傍から聞いているだけじゃ、一体何の劇なのか分からない台詞が響いて、楽しそうな練習の繰り返しになる。

 それがとても羨ましくて、

『いつか、私もあの輪の中に入れるかな…』

 そう、いつか『自然に』入れるようになりたい。そう思いながら、私は練習場を後にしたのだ。


 ともかく、そんなこんなで公演の日は迫ってきた。

 それがまた、大学の定期試験の二週間前とか言う日程の11月25日、日曜日。

「いつもこういう感じ?」

「そうだよ。皆、バイトとか休んで合宿所に泊まるんだ」

 んで、その一週間前になったからっていうんで、私たちは共練に併設されている合宿所に泊まっているわけだ。

「んで、いつもこんなハードなの?」

 スタッフも役者も、ここのところ連日、寝るのが朝の五時だとかになってる。そうなるとどうしても皆、五時間は寝ちゃうわけで、結果的に大学の講義に出るのも二限目から。

「六月公演の時も似たようなものだったよ」

 もちろん私もそんなハードな生活をしたのは大学受験以来で、まだ半分寝とぼけながら歯を磨いていたら、隣でパーマを当てた髪の毛を無造作に後ろで縛りながら、ありちゃんが教えてくれた。

「私、<地元>だからね。朝の五時だとさすがにバスがなくなっちゃうし」

「そうだろうねえ」

 言いながら、私たちは寝不足の顔を見合わせて苦笑した。都会とは違って本当に田舎だから、信じられないかもしれないけどバスだって午後八時には止まってしまう。

 それに役者さんたちの稽古は終わっても、裏方としてのスタッフの役目はまだ終わらないわけで、しかも弱小サークルだから皆、役者と何がしかの裏方を兼任していて、

「…タフだよね、先輩達も」

「ま、楽しくなきゃやってないってことよ。おはよ、亜紀ちゃん、ありちゃん」

 タオルで顔を拭いていたら、後ろから倉田さんが声をかけてきた。

「私もつい寝坊しちゃって、朝の講義、さぼっちゃった」

「どうしても寝ちゃいますよねえ」

「分かりますよー」

 女三人寄ればかしましい、っていうけれど、確かにその通り。朝の合宿所で私たちが笑い合っていたら、皆もまた起きてくる…時計はもう、一限目が終わる午前十時半を指していた。


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