影の主役

 言われるまま、私がカセットテープだけを片付けて、小さな籠に入れていたら、

「あっちゃん、結構やるじゃんね?」

「はは、そう、かな?」

 今回の<影の主役>で、サークルの中では演技が上手だって注目されてる有田さん…ありちゃんが話しかけてきた。

「うんうん。今回はね、本当は私が音響、やりたかったんだー。だけどホント、人が足りなかったからねー」

 するとしのちゃんも話に加わって、

「あっちゃん、声だって結構出るようになってきたじゃない」

「はは、ありがとう」

「なのにどうして男の人にはダメなの?」

 しのちゃんは、いつだってストレートだ。

「あー、えー、それは」

『何でだろうね』

 このサークルに入って二週間。近頃では私も、なんで男の人が苦手だったのか忘れてしまうくらい、なのに男の人に対しては声が出ないのか、自分でも不思議に思えてしまうくらいだった。

「…六年間、女子高だったからかな」

 だけど、私はそういってとりあえず無難だと思う答えを返す。

「そうなの?」

「私たち、ずっと共学だったから分からないけど、そういうもんなのかな」

 そしたら二人は、ちょっと要領を得ないっていう顔を見合わせた後、頷いた。

「お疲れ様! また明日ね。亜紀ちゃん? 気をつけて」

 その後ろを、倉田さんがにっこり笑って通り過ぎていく。彼女もなんだかとても『可愛らしい』感じの女性で、サークルの人たち全員から好感を得ているっていうのが、とても分かる気がする。

「はい、また明日」

 だから私も、ぼのさんへ対する時とはまた違ったホッとした気持ちで、彼女には挨拶ができるのだ。

「気をつけて帰れよ?」

『のっぽで細い』尾山君も、私を見て声をかけてくれる。

(話しかけてきてくれる分には、かなり平気になったんだけどな)

 そう思いながら、

「え、っと。うん。ありがとう」

 私はやっと、それだけを口にした。その隣で大道具を作ってる奥井君は、だけど私には声もかけてくれなくて、

『仕方ないよね』

 私は苦笑した。尾山君が声をかけてくれるのは、きっとそれが彼の性分だからだろう。

 尾山君は『優しい』のだ。私がまともに男の人と話が出来ないっていうのを彼は知ってくれていて、なのにそんな彼とも私が辛うじて話せるのは、こういった「挨拶」程度で、

『変えなきゃ』

 沖本君はハンサムすぎて、こっちが話しかけるのも申し訳ないくらいだし、奥井君は私のことを多分嫌っているし、

『なんとか…変わらなきゃ』

 焦ったところで、長年培ってきた自分自身をすぐに変えるなんて出来っこないのは分かってる。

 坂さんも、二回生の男性先輩の天田さんや千代田さんも、私に気を遣ってくれてるのも分かるから、

『なんとかしないとね』


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